原子力、エネルギー、放射線についての解説

 

巨額貿易赤字の主原因は原発停止ではない

2014.3.5

 

はじめに

日本の貿易は2011年に輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支がマイナス、すなわち貿易赤字に転じた。貿易赤字は、2011年2.5兆円、2012年6.9兆円と増加し、2013年は11.4兆円まで拡大した。政府や経済界は貿易赤字の主犯人が原発停止であるとし、日本経済を活性化するためには安い電力が必要であり、発電コストの安い原発の再稼働を急がなければならないと主張する。しかし、政府・経済界の主張には疑問符が付く。過去3年間に発生した巨額赤字の主要因が原発停止ではないことを述べたい。

原発が順調に稼働していた2010年のデータを基準とし、2012年および2013年のデータと比較することにより原発停止の影響を分析する。

 

2013年は、原発停止を補う化石燃料の増加が3.67兆円。これは11.4兆円の貿易赤字の1/3を占める。残り2/3の7.8兆円は別の理由による。

 

原発稼働の低下

2011年3月11日に東北地方太平洋沖地震が発生した。この地震直後に福島第一原子力発電所(6基)、同第二発電所(4基)、女川発電所(3基)、東海第二発電所(1基)が停止。その後も、定期検査などの理由で国内の原発が次々と停止し、2012年5月には全ての原発が停止した。関西電力は原子力依存度が高かった分、火力発電の余力が乏しかった。そこで関西電力は夏の電力不足を乗り切るために、大飯原発3,4号機の再稼働を申請し、両原発は2012年7月に再稼働した。大飯3,4号機は2013年9月に定期検査のために停止。2014年3月の時点で、稼働原発はゼロである。この結果、2012年度の総発電量に占める原子力の割合は1.7%まで低下した。

過去数年間の火力発電および原子力発電の割合を表1に示す。

なお、財務省統計の1年はカレンダー年(1月〜12月)であり、資源エネルギー庁や電気事業連合の統計では、1年は年度(4月〜翌年3月)となっている。そのため、多少の差異が生じるが分析への影響は小さいと考える。

 

表1 総発電量に占める火力および原子力の割合
電力10社および電源開発による発電量

 

2009年度

2010年度

2011年度

2012年度

総発電量(億kWh)

9565

10064

9550

9408

火力発電量(億kWh)

5860

6210

7530

8310

火力発電の割合(%)

61.3

61.7

78.9

88.3

原子力発電の割合(%)

29.3

28.6

10.7

1.7

 

総発電量は2010年度に1万億kWhを記録した後、2011, 2012年度には数%減少した。原子力発電の総発電量に占める割合は2010年度に29%であったものが、2012年度には1.7%まで減少した。これは、上に述べたとおり、原発が次々と停止したことによる。そして、火力発電割合と原子力発電割合を足した数値は90%と変わっていない。水力発電量が毎年ほぼ一定であることから、原子力発電が減少した分を火力発電が補っていることに対応する。

 

化石燃料の輸入・消費

それでは、火力発電に消費された化石燃料の推移を見てみよう。国内でも天然ガス、石油、石炭は産出するけれども、産出量は輸入量に比べてはるかに少ない。その結果、火力発電に消費される化石燃料は全て輸入されたものと仮定する。表2は天然ガス・原油・石炭の輸入量と発電用消費量の推移を示す。表1と同様に、電力10社および電源開発が消費した化石燃料量を表示する。卸電気事業者である電源開発は天然ガスと原油・粗油を燃焼する火力発電設備を保有せず、石炭火力だけで火力発電を行っている。

液化天然ガス

液化天然ガスは発電および都市ガスに消費される。表2の輸入量から電力消費量を差し引いた値が都市ガス消費量である。2012年、2013年に電力10社が消費したガス量は2010年消費量の1.3倍に増えており、増加量は14×100万トンである。輸入量は1.2倍に増加。しかし、輸入金額を見ると、2010年の3兆4700億円から2013年の7兆560億円に倍増している。輸入金額を消費量に応じて比例配分すると、電力業界が負担するガス輸入金額は、2010年の2兆700億円から、2012年に3兆8300億円へ、2013年に4兆5110億円へ増加する。2010年比の増加金額は、2012年が1兆7600億円、2013年が2兆4410億円である。

 

表2 液化天然ガス・原油・石炭の輸入量・消費量の推移
電力10社および電源開発が発電用に消費した化石燃料の数量


 

 

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

液化天然ガス

輸入金額(1000億円)

28.27

34.72

47.87

60.03

70.56

 

輸入量(100万トン) 

64.55

70.00

78.53

87.31

87.49

 

電力10社(100万トン)

40.33

41.74

52.87

55.71

55.93

 

都市ガス(100万トン)

24.22

28.26

25.66

31.60

31.56

原油・粗油

輸入金額(1000億円)

75.64

94.05

114.14

122.24

142.41

 

輸入量(100万kL) 

213.0

214.6

208.8

213.0

211.7

 

電力10社(100万kL)

9.22

11.05

23.43

29.53

*23.96

石炭

輸入金額(1000億円)

20.56

21.10

24.59

23.20

22.99

 

輸入量(100万トン) 

161.8

184.5

175.2

185.1

191.5

 

電力全体(100万トン)

78.1

74.5

72.4

 

 

 

電力10社(100万トン)

47.8

51.0

49.1

50.1

*57.6

 

電源開発(100万トン)

30.3

23.5

23.3

 

 

 

原油・粗油

電力10社による石油の消費量は2010年の11×100万kLから2012年の29×100万kL、2013年の24×100万kLへ2〜3倍も増加した。しかし、石油輸入量は2009年から2013年まで横ばいであり、電力10社のシェアは4〜14%と小さい。他方、大きな変化は輸入金額に現れている。2013年の輸入金額は2010年比で1.5倍。9.4兆円から14.2兆円に増加した。この間の増加金額は4.8兆円と巨額である。電力10社の原油・粗油購入費は2010年比で3〜2倍に増えたけれども、輸入量が一定であるため、購入費増加を輸入金額の増加の原因とすることには無理がある。

石油火力発電に消費される原油・粗油量は輸入量の4〜14%であり、輸入された石油の大部分は発電以外で消費される。石油輸入量が増加していないのに輸入金額だけが膨らんだ原因は原油価格の高騰および円/USドルの為替レートにあり、特に2013年は円安の影響が効いている。

 

石炭

電力10社の消費量は2009年〜2012年の間、ほぼ50×100万トンであり、2013年は約11%増の57×100万トン。電力10社に加えて電源開発が石炭火力発電をする。電源開発が消費する石炭量の2012年, 2013年分のデータはまだ公表されていない。輸入石炭の半分強は製鉄産業などで消費されている。輸入量は2012年まで横ばいであったが、2013年には2010年の数量よりも700万トン多くなっている。この増加分は電力10社の消費量が51.0×100万トン(2010年)から57.6×100万トン(2013年)に増えたことに対応する。

しかしながら、石炭の輸入量および輸入金額は2010年以降ほとんど変化していない。原発停止を補うために石炭火力発電が少し増加したが、貿易輸入金額への影響は無視してよい。

 

輸入燃料の価格

輸入した化石燃料の価格は表2に載せた財務省貿易統計の数値から求めた。輸入金額を輸入量で割れば数値が得られる。 今回の分析の目的が、財務省が公表する貿易収支と燃料費の増加分を比較することにあるため、財務省データを使用する。財務省データとは別に、原油価格の指標としてWTI原油価格などがあるが、今回は用いない。液化天然ガスについても国際的な価格があるが、これも使用しない。

 

今回の分析に用いた天然ガスと原油の価格の年次変化を図1に示す。液化天然ガス価格が原油価格にスライド、すなわち比例することが知られている。2009年〜2013年間の傾向を見ると、日本の平均輸入価格(総輸入金額を総輸入量で除したもの)は、液化天然ガスの方が原油よりも増加率がやや大きい。液化天然ガス価格は1年でトンあたり0.93万円上昇し、原油価格は1年でkLあたり0.77万円上昇している。

 

Fuel Price
図1 液化天然ガス(LNG)および原油の輸入価格
財務省貿易統計より

 

 

原発停止が及ぼした貿易収支への影響

原子力発電が減少した分は化石燃料を燃焼する火力発電が補完した。その結果、2011年以降、液化天然ガス、原油、石炭の輸入が増えたはずである。これらの輸入増加が貿易収支にどの程度の影響を及ぼしたのかを明らかにする目的で表3を作成した。2011年に最も近く、原発稼働が順調であった2010年を基準年として2012年、2013年の状況と比較する。

各燃料の購入金額が2010年の金額と比べて増加(減少)した金額を「2010年比の増加金額」の行に示している。電源開発のデータが2011年度までしか得られなかったので、2012年と2012年の石炭については電源開発のデータを除いた電力10社の輸入金額を表示することとした。

表3を見れば、液化天然ガスの輸入金額増が輸入金額増加の主役であることが明らかである。天然ガス、原油、石炭を合計した輸入金額の2010年比の増加金額は2012年が3兆160億円、2013年が3兆6770億円。これらの金額を貿易赤字(負の貿易黒字)に占める割合で表せば、2012年が43%、2013年が32%である。 図2に燃料費の増加と貿易赤字の推移を示す。

2011年に関しては貿易赤字を原発停止で説明することは可能である。しかし、2012、2013年になると貿易赤字を原発停止だけに負わせることはできない。特に、2013年の11兆円赤字の主な原因は原発停止とは別のところにあると言うことができる。2013年における原発停止による化石燃料費の増加分は3.6兆円。貿易赤字は11.4兆円。もし2013年に全原発が稼働していたと仮定しても、貿易赤字は7.8兆円と巨額である。

 

Boueki-Akaji
図2 2010年比の燃料費増加と貿易赤字の推移


福島第一原子力発電所の6基は廃炉が確定した。福島第一の事故の影響から福島第二発電所の4基の原子炉の再稼働は不可能と考える。残る44基の原子炉が全て再稼働にこぎ着けたとしても、貿易赤字は解消しないであろう。つまり、日本の貿易構造が進化しない限り問題は解決しないように見える。

表3 電力10社が負担したと推定される化石燃料費の推移
金額の単位は1000億円

 

 

2009年

2010年

2011年

2012年

2013年

液化天然ガス

電力10社の輸入金額

17.66

20.70

32.23

38.30

45.11

 

2010年比の増加金額

▲3.04

0.00

11.53

17.60

24.41

原油・粗油

電力10社の輸入金額

3.27

4.84

12.81

16.95

16.12

 

2010年比の増加金額

▲1.56

0.00

7.97

12.11

11.28

石炭

電力10社の輸入金額

6.07

5.83

6.89

6.28

6.92

 

2010年比の増加金額

0.24

0.00

1.06

0.45

1.09

合計

2010年比の増加金額

▲4.36

0.00

20.56

30.16

36.77

 

 

 

 

 

 

 

貿易統計

貿易黒字

26.71

66.34

▲25.64

▲69.41

▲114.80

 

結論

2012年、2013年の巨額な貿易赤字の原因を原発停止だけに押しつけることは間違い。54基から44基に減った原子炉を全て稼働させても貿易赤字は解消しない。日本の産業構造が問われている。

 

補足

本原稿が完成した前々日の2014年3月3日に茂木経済産業相が参院予算委員会で、原発停止に伴う火力発電の増加により3.6兆円の国富が流出したことを述べた。3.6兆円という数字は表3の3.67兆円の増加金額と一致する。

 

用語の説明

電力10社 :
北海道、東北、東京、中部、北陸、関西、中国、四国、九州、沖縄の電力会社

卸電気事業者 :
電源開発(Jパワー)、日本原子力発電。石炭火力、水力、地熱、原子力で発電した電力を電力10社に販売する。

 

参考資料

気事業便覧 平成25年版
電気事業連合統計委員会編
経済産業省資源エネルギー庁 電力・ガス事業部 監修
LNGと原油の月次輸入通関実績推移 http://blogos.com/article/52840/
LNG調達の現状と課題 総合資源エネルギー調査会 料金専門委員会
一般財団法人 日本エネルギー経済研究所 小山 堅
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/sougou/denkiryokin/pdf/012_09_00.pdf
財務省貿易統計
http://www.customs.go.jp/toukei/info/index.htm
エネルギー白書2013
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2013/index.htm
USドル/円の為替レートの推移 世界経済のネタ帳  
http://ecodb.net
http://ecodb.net/exchange/usd_jpy.html
WTI原油価格の推移  世界経済のネタ帳
http://ecodb.net
http://ecodb.net/pcp/imf_usd_poilwti.html
2012年度の日本の発電量9236.1億kWhから見る原発の必要性
http://d.hatena.ne.jp/skymouse/20130924/1379952725

電力統計情報 電気事業連合会
http://www.fepc.or.jp/library/data/tokei/index.html

電力調査統計
http://www.enecho.meti.go.jp/info/statistics/denryoku/result-2.htm
電源別発電電力量構成比および原子力発電所設備利用率
電気事業連合会 2013.5.17
http://www.fepc.or.jp/about_us/pr/sonota/__icsFiles/afieldfile/2013/05/17/kouseihi_2012.pdf

 

原子力、エネルギー、放射線