原子力、エネルギー、放射線についての解説

 

再稼働の条件
電力会社が自ら安全を考えること

 

国内には16原子力発電所サイトに48基の原子炉がある。その中の10サイト17基に対して再稼働の申請が出されている。政府は「原子力規制委員会が、世界で一番厳しい審査基準を満たしていることを確認し、安全が確認されたものから再稼働させる」と表明している。果たして、規制委員会の審査を通れば安全と言えるのだろうか?地震や津波への対策を強化すれば安全が確保されるのだろうか?

 

残念ながら、私は審査合格だけでは安全を確保することは難しいと考える。何故ならば、再稼働を申請する電力会社には安全を確保するために自ら思考する様子が見えないからである。これは、丁度、受験生が入試問題に対する「傾向と対策」を準備するように、電力会社が再稼働を認めてもらうための「傾向と対策」として必要最小限の対応をしているように私には見える。試験のための勉強はするけれども、人生のための勉強をしない学生のような姿勢を電力会社に見てしまう。これは言い過ぎだろうか?

 

福島原発事故をふり返って見れば、事故を引き起こした原因は地震・津波以外にも幾つかある。沢山の要素が複雑に絡み合っている。事態進行のプロセスが解明されたとはとても言えない。事故の全体像を深く科学的に解明する作業の熱意が次第に冷めてゆく中、除染、汚染水対策、廃炉などの事故後の問題だけが話題となっている。「何故事故が起きたのか」の真摯な反省と究明をあいまいにしたまま、燃料輸入増加という経済問題の視点から再稼働ありきが進行している。しかし、経済問題を持ち出すことは原子力事故に対する問題のすり替えである。

 

Fukushima3&4
事故直後の福島第一発電所、左が3号機、右が4号機

 

必要条件

福島第一原子力発電所の各原発は、その当時の安全基準を満たしていたので原子力安全保安院から運転が認可されていたはずである。それにも関わらず事故が起きたことを忘れてはならない。

 

規制委員会が電力会社に求めている審査基準は原発の安全を確保するための最低の必要条件と考えるべきである。活断層、フィルター付きベントなどの審査基準はクリアーしなければならないものである。しかし、審査基準を満足したから「安全」とはならない。

何故ならば、原子力安全保安院あるいは規制委員会による安全審査は原発を運転するための必要条件に過ぎず、安全審査合格は必要条件であるけれども分条件ではないからである。

 

十分条件

では、十分条件は何であるか?安全や事故を考えるとき、これを満足すれば安全のために十分ということはない。100点満点の「安全」を達成することは不可能であり、あり得ないのである。99.9点の先に99.99点、その先に99.999点。どこまで行っても100点に到達できない。

 

100点満点に近づく道は、自ら考えて対処することである。電力会社がメーカーなどと協力して、問題箇所を発掘し、対策を講じることである。しかも、この道には終点がないため、絶えず考え続けなければならない。こうした思考習慣を確立することによって原子力関係者は安全神話から解放されるであろう。

 

再稼働する前に

原子力発電システムは非常に複雑であるために、各所に不具合・欠陥が潜んでいると考えた方がよい。例えば、配管工事のミス、システム内の論理的ミス、材料の劣化、事故時の対処方法が不完全、などがある。複雑であるが故に、机上の理屈と現場における実際との間に乖離が起きやすい。非常時・事故時の現象は多種、多様である。それまで想定しなかった事態が発生するかもしれない。そうした事態に迅速に対処するためには日常における準備が大切である。

 

福島事故が明らかにしたことは、想定しておくべき異常事態の範囲が狭かったこと、異常事態に対処する訓練が不十分であったこと、異常事態が4基の原子炉で同時発生したこと、4基の原子炉システムの内部構成が少しずつ違っていたこと、など非常に多くの事柄である。事故原因の詳細な究明は事故から3年を経過した時点でも終わっていない。想定外であった地震・津波のせいにすることで事故原因をうやむやにすることは無責任と言える。

自ら考える

原子力発電を進める電力会社が自ら問題を発掘し、問題の解決を行こと。自ら考える組織を構築すること。これによって、規制委員会という外部から与えられた問題への答案を作成すればOKという生活習慣から脱皮しない限り、原子炉を安全に運転することはできないと考える。

 

例えば、原子力安全管理を担う組織を社内に設置する。その組織は、電力、メーカー、工事社から構成される。電力会社から、役員、発電所長、運転員班長、運転員などが参加する。安全管理組織では、システムの不具合、弱点などを不断に探し求め、カイゼン活動を進める。提案内容や提案件数に応じたインセンティブを組織メンバーに支払う。

 

結論

安全の完成度を絶えず向上させるために、カイゼン活動と安全管理を推進する組織を電力会社の内部に構築しする。原子力発電を行う事業者自身が安全を考える風土を作り上げる。古い「原子力ムラ」から近代的な「原子力町」へ進化しない限り、原子力事故は再発するものと思われる。

 

附録

防災訓練

私が在職した原子炉工学研究所では毎年、防災訓練を職員ばかりでなく学生も含めて行った。そこから得られた教訓は、毎回、新たな問題点が見つかるという事実であった。
大学研究所における防災訓練の経験から、各原子炉で防災訓練を定期的に実施することを提案したい。防災訓練から原子力発電システムに潜む欠陥を発見することが期待される。

 

ハインリッヒの法則

労働安全の分野ではハインリッヒの法則が有名であり、各職場で周知の法則である。
ハインリッヒの法則とは、1つの重大災害が起きたとき、その背景に29件の軽い災害が起きており、さらにその裏には災害に至らなかったけれどもヒヤリ、ハットした事例が300件あるという経験則である。この法則に基づいて、職場ではヒヤリ、ハットを互いに報告し合い、重大災害を防ぐことが行われている。

 

Hiyari-Hatto
労働災害におけるハインリッヒの法則

 

 

事故の背景には、多忙、思い込み、業務の分業化がある。小さな間違いが重なることによって重大な事故が起きる。「人は誰でも間違える」という事実を忘れてはいけない。

 

医療安全管理

医療分野(参考資料1)では、患者を取り違えるという重大事故が起きた。このような医療事故をなくし、医療安全を確保するために組織的な取り組みがなされている。例えば、病院内に医療安全管理委員会が置かれ、医療安全管理者が安全管理体制の構築や医療事故への対応を主導している。病院職員の全員が当事者意識をもって医療安全に取り組むことができるように安全文化を醸成するための活動が行われている。

 

参考資料

5日間で学ぶ医療安全超入門 

学研メディカル秀潤社、日本医療マネジメント学会監修

 

外国で公開されている福島第一原子力発電所の高精細画像
http://www.asyura2.com/11/genpatu8/msg/430.html

原子力、エネルギー、放射線