Fukushima Nuclear Disaster

 福島原子力災害を経た原子力のあり方

チェルノブイリと福島

2018.10.31

 

はじめに

史上最悪の原子力事故が旧ソビエト(現ウクライナ)のチェルノブイリで発生した。1986年4月26日である。偏西風で運ばれた放射性物質が東京でも観測された。2011年3月11日に発生したM9.0の巨大地震およびそれに伴う津波が福島第一原子力発電所を襲い、3機の原子炉で炉心がメルトダウン。これも史上最悪の原子力事故である。

 

T1
表1 チェルノブイリと福島の共通点

 

国際評価では両事故ともINESレベルの7である。レベル7はチェルノブイリと福島だけである。両事故とも10万人前後の人々が避難や移住を余儀なくされた。これらは単なる事故ではなく原子力災害である。

 

事故原因 チェルノブイリ

  原因は技術情報伝承の不備と考える。教育訓練が不足していた。

 

原子炉の構造が特殊であり、低出力で運転すると原子炉が不安定になるので、低出力運転が禁じられていた。しかし、その技術情報が運転員に伝わっていなかった。その結果、運転員は定格の20%で運転する実験を進め、異常に気づき運転を停止するために制御棒(ブレーキ)を挿入した。その直後、原子力出力は急上昇し、水蒸気爆発に至った。

 

低出力にするために多数の制御棒が既に挿入されていた。制御棒は特殊な構造をしており、挿入を始めると原子炉下部の(中性子をよく吸収する)水が排除され、そこが(中性子を吸収しにくい)炭素に置き換わる。そのため、炉内の中性子数が増え、連鎖反応が増加し、出力が上昇した。残っていた制御棒を全て挿入したが、ブレーキが間に合わなかった。制御棒の挿入速度が遅かったためであり、使える制御棒の数が少なかったことも効いたのであろう。

 

ブレーキをかけたはずなのに、アクセルペダルを踏み込んだ様な状態になり、原子炉は暴走した。結果として、高温の核燃料に水が触れ、水蒸気爆発が起き、原子炉が破壊された。

チェルノブイリでは制御棒の挿入が終わるまでの時間が約20秒。他方、日本の軽水炉の場合、制御棒は水圧で駆動され、挿入完了までの時間は2〜3秒とのこと。

 

事故原因 福島

  原子力ムラの人達は安全神話に侵されていた。

 

安全対策を強化することは安全でないことを明かすことになり、安全神話に反する。安全対策強化を言い出しにくい雰囲気が支配していたであろうと想像する。

 

地震および津波への対策が不十分であった。その結果、地震によって外部から電力を得る6系統の送電線の全てが破壊された。停電である。非常用ディーゼル駆動発電機が海水に浸かり故障。海辺に設置された海水を汲みあげるポンプが津波で破壊された。要するに、津波が襲来した時点で炉心を冷却する機能がなくなった。

 

地震動が到達した時点で制御棒が炉心に挿入され、その2、3秒後に連鎖反応は停止した。その後は熱出力の約20%の崩壊熱の冷却であり、崩壊熱は時間と共に減ってゆく。最初の数時間の冷却が勝負である。地震波の到来時刻が14:47、津波襲来の時刻は15:37。従って、最初の50分間、炉心は順調に冷却されていた。3月11日の夕方頃から原子炉のメルトダウンが次々と起きていたと推定される。

 

チェルノブイリと福島の状況を比較したものが下の表2である。

 

T2
表2 事故状況の相違点

 

放出された放射性物質

通常は環境に放出された放射能量はベクレル単位で表示される。しかし、ベクレルでは量の大小が分かりにくい。私は質量で計りkgで表示することにした。質量kgで表すことには利点がある。

 

電気出力100万kWの原発を1年間稼働するとウラン235が1.2トン消費される。言い換えると1.2トンのウラン235が1.2トンの核分裂生成物に変わる。核分裂反応から生成される核種の比率は実験から判明している。これを基にして電気出力と運転時間から原子炉内に存在している放射性物質の量をkg単位で求めることができる。

 

表3は環境に放出された主要な放射性物質の量を示す。放射性物質量は放射能単位のベクレルではなくてkg単位で表示する。福島の場合、放出量は報道されたベクレル量から換算した。

 

T3
表3 主要な核分裂生成物の放出量

 

表3を見るとI-131とCs-137の放出量・放出率に大きな開きがある。その原因は放射線測定の信頼性が低いことにあるのではないか。そうであっても、環境を汚染した放射能量はとてつもなく多い。

 

最近の様子 チェルノブイリ

事故の直後に爆発で破壊された4号炉から放射性物質が環境に放出されることを防ぐためにコンクリートで閉じ込める石棺が構築され、1986年11月に完成した。しかし、雨水の浸み込みによってコンクリートや鉄が劣化した。そのため、石棺を覆うシェルターが構築された。全幅257m、全長162m、高さ108m、総重量36,000トン。これが2016年11月に完成。工事中のシェルターの写真を図1に示す。

Shelter
図1 石棺に向かって移動中のシェルター
https://gigazine.net/news/20161130-chernobyl-arch/ より転載

 

最近の様子 福島

トリチウムを含む汚染水の処分をどうするかで難航している。水素爆発で壊れた建物を保護する大きなカバーが作られ、まず3号機が覆われた。核燃料と構造材が溶けて混じったデブリの取り出しに向けた作業が続いている。この作業は試行錯誤を重ねながらの息の長い試練である。

 

図2は東電が想像する1号機のデブリの配置である。デブリは格納容器の中央部にある格子の上、およびフラスコ状の底部に溜まっていると想像されている。デブリは高原子番号のウランと鉄などが溶け合ったものであり、相当に硬いと言われている。

 

Debris

図2 1号機のデブリの予想図
東電のHPより転載

原子炉の仕様

原子力事故に関与した原子炉を表4に比較する。チェルノブイリ4号炉は運転開始から2年しか経ていない新品の原子炉であった。それにも関わらず、原子炉の特殊性が運転員に正しく認識されていなかったことは驚きである。

 

福島の場合、3機の原子炉のいずれもが運転開始から35年以上を経過していた。それなりに老朽化した設備であったことが分かる。特に、1号機は電気出力が46万kW小さく、経済性が低い。そのため、正常であっても廃炉される運命にあった。

 

T4
表4 事故に関与した原子炉のデータ

参考資料

1 黒鉛減速沸騰軽水圧力管型原子炉(RBMK) (02-01-01-04) - ATOMICA
  http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=02-01-01-04
2 チェルノブイリ原発事故、スリーマイル島原発事故との比較
  https://www.nippon.com/opinion311/jp/disaster-data/1103/
3 RBMK-1000 ウィキペディア
  https://ja.wikipedia.org/wiki/RBMK-1000

 

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