福島事故に関する提言

 

トリッキーなエネルギー・環境会議と原子力委員会

 

「エネルギー・環境の選択肢」に関する意見聴取に注目するべきことがある。それは、使用済核燃料政策と高速増殖炉もんじゅが原子力依存度(比率)とセットになっている裏があるにも関わらず、エネルギー・環境会議では原子力比率(0%,15%,25-20%)の数字だけを示すことによって原子力政策が議論されていることである。

 

なお、「選択肢」の具体的な内容は、参考資料に掲げた「核燃料サイクル政策の選択肢について」および「エネルギー・環境の選択肢」に公表されていますので、それらをご覧ください。

 

エネルギー・環境会議

2012年の7月から7月にかけて、日本における原子力発電をどうするのかを決めるための参考意見を国民から広く集めるために「エネルギー・環境の選択肢」に関する意見聴取会が経産省の主導によって各地で行われている。エネルギー・環境会議を開催することは2011年10月28日の国家戦略会議において決定されていた。

 

エネルギー・環境の選択肢

「エネルギー・環境の選択肢」は2030年の時点で発電における原子力の比率を25%〜20%、15%、0%の3選択肢に分け、各選択肢に関する意見を聴取することになっていた。この内容は、2012年6月29日に経産省から公表されたエネルギー・環境会議の参考資料に載っている。2010年の原子力発電比率が26%であったことを参考値として与え、原子力発電が減少する分を再生可能エネルギーで賄うことが提示されている。

 

表1 エネルギー・環境に関する選択肢の資料より

 

2010年

2030年

原子力

26%

0%

15%

25-20%

再生可能

10%

35%

30%

25-30%

火力

63%

65%

55%

50%

 

 

 

 

 

非化石電源比率

37%

35%

45%

50%

注1: 再生可能には水力が含まれる

注2: 2010年の水力は8.5%、再生可能は1.1%

注意するべき点は、エネルギー・環境会議において示された選択肢は原子力比率と再生可能エネルギー比率がセットになっていることである。

さらに、再生可能を水力を除く新エネルギー(太陽光発電、風力)で賄うとするならば、新エネルギーを2030年までの18年間で1.1%から15%〜25%まで、すなわち15〜25倍に増強することは不可能と言っても過言ではない。

 

核燃料サイクル政策の選択肢

では、2030年に原子力が発電に占める比率の3選択肢を誰が決めたのかと言えば、それは内閣府に属する原子力委員会である。原子力依存度の数値は、2012年6月21日に原子力委員会が公表した「核燃料サイクル政策の選択肢について」と言う報告に示されている。原子力委員会が提案した選択肢では、原子力依存度が再処理工場の稼働および高速増殖炉もんじゅの開発とセットになっている。

 

私が想像するに、原子力委員会の狙いは、使用済核燃料再処理の継続およびもんじゅ開発の継続を合法化させるために原子力比率15%を選択させることにあるのではないか。日本人の通常の心理を想定し、15%シナリオの両側に0%と25-20%(2010年の26%と同じ)シナリオを配置した。0%と言う極端なシナリオが選択される可能性は非常に低いとし、かつ現状に近い25%シナリオも脱原発、減原発の風潮から選択されなくてもやむを得ないと想定したのではないか。


3選択肢の両極端が否定されても、残りの15%シナリオが選択されることになる。この15%シナリオならば、再処理ももんじゅも安泰である。要するに、原子力委員会の提案は選択の落としどころとして15%シナリオという本命を3選択肢に埋め込んでいる。これならば、「原子力ムラ」は満足することができるであろう。

 

両極端は心理的にものであり、それを除くと選択肢が事実上1つしかないと言う実にトリッキーな選択問題である。ただし、2012年8月初旬の福島で開催されたエネルギー・環境会議では0%シナリオの意見が多数を占めるようになり、原子力委員会は少し慌てているのではないか。それにしても、トリッキーな落とし穴を組み込んだ選択肢を秘密会議を経て提案する原子力委員会は福島事故の意味をくみ取ることができず、相変わらず仲間内の議論に閉じこもったままである。このままでは原子力委員会は国民から見放され、存続が怪しくなるであろう。

 

表2 「核燃料サイクル政策の選択肢について」の要点

 

 

現状

25〜20

シナリオ

15

シナリオ

ゼロ

シナリオ

 

 

2010年

2030年

原子力発電比率

 

26%

25〜20%

15%

0%

 

 

 

 

 

 

使用済燃料処理

 

 

 

 

 

 

全量再処理

 

 

 

 

全量再処理
もしくは
再処理・直接処分併存

 

 

 

 

再処理・直接処分併存

 

 

 

 

全量直接処分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もんじゅ開発の継続

 

 

 

参考資料

 

核燃料サイクル政策の選択肢について
平成24年6月21日
原子力委員会決定
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/about/kettei/kettei120621_2.pdf

 

エネルギー・環境に関する選択肢
〔概要〕
平成24 年7 月
国家戦略室
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120713/gaiyo.pdf

 

エネルギー・環境に関する選択肢
平成24年6月29日
エネルギー・環境会議
http://www.npu.go.jp/policy/policy09/pdf/20120629/20120629_1.pdf

 

福島事故に関する提言