福島事故に関する提言

 

下請け制度

2011.6.10 訂正

原子力発電所(原発)は電力会社(東電)が所有している。原発の建設、運転、保守などに東電社員が関わっていることは確かであるが、東電社員が行っているのは実際の作業の極一部である。大部分は協力会社と呼ばれる下請け会社や孫請け会社の多数の作業員の働きに支えられている。いわゆる原発労働者、原発ジプシーによって原発は支えられている。今回の福島原発事故の困難な対応にあたっている人達の多くが原発労働者である。

東電は下請けに仕事を発注する。発注という仕事はデスクワークである。ときには、発注されるべき仕事の提案書すら下請けから出ているかもしれない。現場の仕事をするのは下請けである。東電は仕事ぶりを監督し、成果に対して支払をする。東電社員が設備や道具を運んだり、ボルトを締めたり、配線工事をするということはないはず。

 

分業がかかえる問題

分業と言えば聞こえはよいけれども、この分業に問題がある。
例えば、ある配管部分のバルブを交換する場合、下請け作業員には、そのバルブがどのような目的と機能をもつのか、どのような条件下で使用されるのかなどが一切知らされない。特別な注意を払う点があるのかどうかも知らされない。ただ単に、古いバルブを新しいバルブに交換するという指示だけである。

もしも、バルブの目的や重要な機能が作業員に知らされていれば、作業員の側からもっと適切なバルブを取り付けることが提案されるかもしれない。固定方法や作業手順に工夫がされるかもしれない。世間でいう「カイゼン」が実現する可能性が出る。

他方、東電社員には現場に取り付けられたバルブが注文とおりの機能をもつものなのか、異なるものなのかを知る機会がないかもしれない。配管の中に落としたボルトが回収されずに残っているのかどうかを知る術がない。工事ミスがあったとしても、それを見つけることが大変難しい。

親会社、下請け、孫請け、2次孫請けなどのピラミッド構造をした下請け制度の上に成り立っている原発では、システム全体を健全に保つために必要な責任と信頼に不安が残る。

今回の地震では、津波を除いた地震動だけに起因する損傷が起きたのではないだろうか?高濃度汚染水が損傷した地盤を通して海に漏れ出たことは1例であろう。それ以外にも建屋内部で損傷した部分がありそうである。東電の若い社員2名の遺体が何日も経ってから建屋の地下から発見されたが、彼らの死因は何であったのか?水素爆発が起きていない、建屋内部の破壊が比較的少ない2号機で地震動に起因した事例が見つかるかもしれない。

 

設備利用率

日本では、定期検査の際に、機器の寿命と関係なく、一定時間ごとに機器を新品に交換する部分があるようだ。このため、定期検査の期間が長くなり、設備利用率が低い。下請け制度による責任のあいまいさが、作業ミスを誘導し、設備利用率がさらに低下する。
BWRの設備利用率が低下した原因として東電柏崎の地震被害が考えられる。

設備利用率の表
(ある年に発電した量を、365日フル稼働した場合の発電量で割った値)
BWRは沸騰水型原子炉、PWRは加圧水型原子炉を指す。

BWRの場合
80% (1999) – 51% (2008)
PWRの場合 81% (1999) – 89% (2002) – 74% (2008)
BWRとPWRの合計
80% (1999) – 60% (2008) 

  

他方、米国には下請け制度がない代わりに業種別ユニオン制度がある。電力会社の正社員は業種別ユニオンの専門作業員と協力して原発の保守作業を行う。正社員と専門作業員は共にプライドを持って作業をする。「カイゼン」も行われる。

また日本のような定期検査はないそうである。電力会社が行う点検では、指定された交換時期に機器を交換するのでなく、寿命がきた機器を交換する。使えるものは長く使う。

さらに、米国では原子力推進の軍艦で働いた人が退役後に陸上の原発で働く。言わば、原子炉に精通した人が原発の整備にあたるとのこと。こうした事情のせいか、米国では原発の設備利用率が1990年の66%から2004年には90%まで上昇した。

米国の設備利用率
66% (1990) – 90% (2004)

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