福島事故に関する提言

 

建前としての安全

 

原子力発電システムは安全であるとの建前が作られていた。建前のことを安全神話とも言う。多重の安全対策が施されているから安全であり、今以上に安全対策を講ずる必要はないとされてきた。安全に関する疑問が出されると、推進側の人々の仕事は「十分に安全である」との結論に導く説明を工夫することであった。


福島第1原子力発電所の場合、外部電源は6系統も用意されているのでバックアップ体制は十分であると想定されていた。しかし3.11の震災では6系統の全てが遮断されてしまった。地震によって6系統の送電線が全て破壊される事態は想定外であった。同じ仕様の送電線を6重に用意しても大規模な災害時には全てが同じように破壊され、多重防護が機能しなかった。


外部電源が遮断された場合に備えて非常用ディーゼル発電機が設置されていた。6基の原子炉に対して12台の発電機があったけれども、津波の後に生き残ったのは6号炉用の1台だけであった。非常用発電機の設備は原子炉建屋外の海側に設置されていたため、津波の被害を受けてしまった。多数のディーゼル発電機が設置されていても、それらが同じ場所に配置されていては震災時に多数が同時に破壊されてしまう。被災する危険を分散する対応がされていればと悔やまれる。

 

歴史上には3.11東日本震災と同程度の津波が発生していることが地震の専門家から指摘されていたにも関わらず、東京電力および原子力推進側の人々はその忠告を真面目に採り上げることをしなかった。彼らはそのような大地震は起きるはずがないと本当に信じていたのであろうか?もし巨大地震を想定するならば現行の原子力発電所を放棄するか、あるいは安全対策に巨費を投ずることになり、いずれの場合も大きな経済損失となる。経済損失は電力会社ばかりでなく原子力産業にも及ぶため、「安全神話」という建前を訂正することができなかったのであろう。

 

著名なロボット研究者が原子炉メーカーに原子力事故の際に役立つロボットの共同開発を提案したところ、開発には大きなコストがかかるという理由でメーカーから断られたとのエピソードを知人から聞きました。共同開発を断った真の理由はコストではなく、「原子力事故」を想定することが「安全神話」と矛盾することにあったと思われる。原子炉メーカーの担当者は本音では原子力事故に役立つロボットを開発することが必要であると考えたとしても、ロボット開発が建前と矛盾するために共同開発を断わったのであろう。福島第1原子力発電所で実際に事故が起きた後、日本には対応できるロボットがなかったため米国から緊急輸入したニュースに多くの人々が「何故日本に事故に対応できるロボットがないのか?」と素朴な疑問を抱いたはず。何しろ日本はロボット大国であるから。

 

福島事故に関する提言