社会や音楽etcについて

 

STAP論文疑惑の背景

2014.04.30

 

結論を先に述べれば、論文疑惑の背景は「任期付き研究員」すなわち「ポスドク制度」にあると想像する。

 

2014年3月に、理化学研究所の小保方晴子氏が投稿したNature論文の中に間違った図と切り貼りされた図が掲載されていたことが指摘され、論文疑惑の問題がスタートした。その後、論文疑惑問題が理化学研究所の調査委員長を務めた石井俊輔氏に及んだ。

 

2014年4月26日のTV放送で、京都大学の山中伸弥氏が論文疑惑で謝罪する沈痛な姿を見てびっくり。事が山中氏に及んだ段階で、一連の論文疑惑問題の背景が見えてきたと思うに至った。

 

小保方氏への疑惑が暴露された段階では、暴露した人物はSTAP研究チームの内部者あるいは周辺者によるもので、Natureに論文を2本も同時に採択されたことへの「ねたみ」が原因かと想像した。次に、暴露攻撃が石井氏に及んだ時は、「ブルータスおまえもか」と思ったけれど、疑問を感ずることはなかった。友人のH氏は、論文発表と並行する特許のロイヤリティ配分に関係者の誰かが不満を持ったのではないかと想像した。

 

しかし、山中氏を攻撃のターゲットにした暴露者はSTAP研究チームに近い人物ではなく、STAP研究と関係のない人物となる。では、どの様な人物であるのか。ヒントは上記のH氏が述べた、理化学研究所では任期付き研究者(生命科学分野)が使い捨てにされているというコメントにあった。

 

Zpinch

私が関係したプラズマ実験装置

今回の論文疑惑とは関係ありません。

 

30年から40年前、私が博士課程を終えた時代にはオーバードクターが問題が登場した。これは、博士号を取得しても大学や研究機関に定職を得ることが難しく、就職浪人が増えたことを指す。オーバードクター問題の解決案としてポスドク制度が登場した。

 

ポスドクとはpost doctor (PD)を指し、博士となった若い研究者のこと。欧米で定着していた制度であり、研究者の卵が3〜5年の任期で、出身大学とは異なる研究機関で働く。再任は難しい。武者修行と捉えることができる。

 

ポスドク制度には数値目標が設定され、博士修了者の数が増えるに従ってポスドク数も増加した。博士修了者の多くは大学や研究機関の研究職を希望するけれども、大学や研究機関の研究職ポストは限定されており、ポスト数は希望者数よりもはるかに少ない。その結果、ポスドクは再任されるか、別の機関でポスドクとして採用されるか、どこの機関からも採用されないかのいずれかである。ポスドクは不安定な職である。

 

我が国のポスドク制度は昔のオーバードクター問題の先送りであり、研究職問題の真の解決にはなっていない。そもそも、ポスドクとは若い研究者に対する制度であり、中年になるとポスドクに採用されることは難しい。ポスドクになれなかった人の中には派遣会社に登録し、派遣研究者として研究機関で働く人がいるとのこと。これは、研究職における格差社会の例であろう。このようにポスドク問題は先送りされている。

 

なお、10年ほど前に国立大学の教員に任期制が導入された。私が在職していた東京工業大学でもしかり。助教は当然、准教授、教授にも任期が付くようになった。終身雇用は昔の話となった。再任されるためには、成果が求められ、研究論文数が主要な評価項目となる。「働け、研究成果が職を保証する」というムチである。

 

では、本題に戻ろう。

生命科学研究を推進する理化学研究所や京都大学には巨額の研究予算が流れ、ポスドク(任期付き若手研究者)が多く採用されている。パーマネントポスト(終身雇用職)に就けない者はテンポラリーポスト(任期付き職)に就くが、定年まで繰り返すことは難しい。

 

再任されなかった人は別の道を行くことになる。そのように、中年になって研究職を追われた人が自分の処遇に恨みをもつかもしれない。生命科学研究に知見と経験がある者が論文の中に疑問点を見つけ、それを暴露したのかもしれない。小保方氏が最初のターゲットであったことから、暴露者は理化学研究所で生命科学分野の任期付きポストにいた人物である可能性が高い。山中氏を非難した人は別人かもしれないが、同じ境遇の人であろう。

 

もしも、恨み説が正しいならば、文科省や理化学研究所の関係者は強く反省しなければならない。

 

蛇足

小保方氏はNatureというプレステージの非常に高い(週刊)雑誌に2本の論文を投稿し、それが連続して掲載された。野球に例えれば、2打席連続の満塁ホームランに相当する。 理化学研究所の上層部は大いに満足したことであろう。論文疑惑が出て、論文を取り下げる、下げないの、ゴタゴタに至った落差は非常に大きい。満塁ホームランの後にドーピング疑惑が起きたようなものである。

 

論文の不備をとりあげ、非難することは科学の進歩を妨害するものであって、科学を推進するものではない。良い点を見ず、マズイ点だけを見て、減点するやり方では科学は進歩しない。優れた点を評価する加点法ができず、減点法に頼ることはまずい。

 

「働け、研究成果が職を保証する」で想い出したのがポーランドにあるアウシュビッツ強制収容所の看板「Arbeit macht frei」(働けば自由の身になれる)である。

 

論文疑惑で指摘された(1)博士論文で使われた画像の転載、(2)電気泳動写真の切り貼り,を Nature論文から見つけることは至難である。(1)の問題は博士論文を見ない限り気がつくことはないだろう。(2)の問題も指摘された後、画像を拡大して初めて切り貼りが判る。

 

STAP-Drift
STAP=Fotos

遺伝子解析の写真

中央が切り貼りされた部分

細胞の写真

博士論文からの転載とされる

2つの画像はNature誌 505, 641-647 (2014)からの転載です

 

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