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Jアラートの欺瞞

2017.10.05

 

201年8月29日および2週間後の9月15日に北朝鮮のミサイルが日本上空を通過し、襟裳岬の東約1180キロ、2200キロの太平洋上に落下した。このミサイル発射に伴い、Jアラートが北日本に発せられた。このアラート(警報)が多くの人々に要らぬ恐怖を煽ることとなった。

 

弾道ミサイルへのアラートはナンセンス

弾道ミサイルは発射された後にミサイルの飛行軌道を解析すれば、打ち上げの頂点を通過後に落下する軌道を計算から予測することができる。ミサイルという物体の飛行パラメータ(速度、加速度、方位、方位変化など)を把握すれば、物理学の法則か落下位置と落下時刻を計算することができる。

 

8月と9月の弾道ミサイルの場合、ミサイルが軌道の頂点を通過する前に落下位置と落下時刻を推定することができる。弾道飛行をする物体が途中で飛行を止めて落下することはない。故に、襟裳岬の東方1000キロ、2000キロの太平洋上に落下する予定のミサイルに関して、地上にいる人々に警報を鳴らすことは、恐怖を煽るだけで、何の利益もない。ナンセンスとしか言いようがない。

 

J-alert

図1 2017.8.29と2017.9.15の弾道ミサイルの飛行

朝日新聞デジタル版 2017年9月16日


アラート(警報)を出した目的は何なのか?
解散選挙のためなのか?

 

野球の打球

野球の試合の中で、打者がホームランを打ったとき、観客はホームランであることを直ぐに見分けることができる。ホームラン打球が途中でポトリと落下することがないことは経験から分かっている。これは、物理現象を日常の中で観察しているからである。

 

野球の場合、ピッチャーが投げたボールに打者のバットが当たり、ボールに衝撃を与える。衝撃を受けたボールは反発力を受けて前方に飛び始める。物理学によれば、打力を受けたボールが運動量を得て、初速度が決まり、飛び始める。野球場には空気があるため、ボールは空気抵抗を受けて、速度は落ちてゆく。しかも、地上には重力があるため、上方に打ち上げられたボールは頂点を通過した後、地上に向かう。

 

観客はホームランボールの軌道から、何秒後にどこに落下するかを予測することができる。
弾道ミサイルも基本的には、ホームランボールと同じ運動をする。それは慣性の法則に従う運動である。

 

簡単な問題の例を示しめす。ボールが角度60度で斜め上方に速度毎秒35m(時速36キロメートル)で打ち出されたときの、ボールの飛行を経路を図2に示す。これは最も単純な弾道飛行の例である。ボールの飛行経路(軌道)は放物線を描く。昔、高等学校で習った数式で表すと、

       y=ax^2 + bx + c

の二次方程式となる。ボールは投げ出されてから2.9秒後に頂点41mに達し、その後は地上に向かっ落下。5.8秒後に池面に落ちる。現実の野球では大気の影響を受けるが、ホームランの実態からそれほど離れていないと考える。

DandouHikou
図2 ボールの飛行軌道

 

ミサイルの弾道飛行

ミサイルの場合、ミサイル本体の重量が野球のボールよりもずっと大きい(重い)ため、ハンマーあるはバットで打って、飛ばすことができない。必要な運動量を与える打力が強すぎて、ミサイルが壊れてしまう。

 

ハンマーの代わりがロケットエンジンである。ロケットは燃料を燃焼させ、燃焼によって生まれる排気ガスを下方に噴出する。噴出されるガスには質量があり、それが下向きの速度を持つ。これが下向きの運動量を発生する。 下向きの運動量の反作用としてミサイルは上向きの運動量、すなわち上昇力を得る。

 

これを式で表すと

   (ΔMt)V — Mg = F > 0  (1)
     Mはミサイルの質量
     ΔMは短い時間Δtの間に排出される燃焼ガスの質量
   gは重力加速度であり、ミサイルの高度によって変化する
   Fはミサイルを推進する推力

 

ミサイルを打ち上げるにはFはゼロよりも大きくなければならない。この推力を発射の瞬時だけミサイルに与えても、遠くへ飛ばすことはできない。そこで、ロケットの燃焼を長い時間続ければ、ミサイルを高く、遠くへ飛ばすことができる。大型ミサイルや人工衛星の打つ上げでは、ロケットを2段、3段と積み重ね、1段目の燃焼が終わると切り離して軽くする。最後に身軽になった部分が宇宙空間に達する。

 

ロケットの運動はニュートンの古典力学に基づく運動方程式を計算機を用いて計算すればよい。飛行物体の質量が時々刻々変化すること、地球とロケットの間に働く引力や大気圏を飛行中の空気抵抗も変化するため、式(1)よりは複雑な計算式なるけれども。

 

ロケットの燃焼が終わり、上向きの加速度(力)が無くなると、ミサイルはそれまでに得た運動量(質量と速度の積)で弾道飛行をする。他方、地球の引力を受けて上昇速度は徐々に遅くなり、最高高度に到達後は地球に向かって落下する。落下速度は地球に近づくにつれて速くなる。

 

ミサイルの垂直方向の落下速度は地球の引力と空気抵抗で決まる。水平方向の速度はロケット推進が最後に達成した速度であり、それは宇宙空間の飛行中は維持され、大気圏に入ると空気抵抗を受けて遅くなる。

 

要するに、ミサイルが上昇中の運動をレーダーで測定し、運動方程式を解くために必要なパラメータを得ると、ミサイル本体の弾道飛行経路を瞬時に計算することができる。着弾の位置と時刻を予報することができる。予報の精度は測定パラメータの誤差が左右するが、数キロメートル程度であろう。

 

ミサイルに精密誘導装置がある場合は少し異なるが、大筋は変わらない。しかも、ミサイルは飛行機と異なり、ホームランボールの様に慣性運動をしているので途中で墜落することはない。

 

飛行機の墜落

飛行機はロケットのような慣性飛行をしない。浮力は翼の上下を流れる空気による揚力に頼るため空気のある空間を飛行する。エンジンの推進が途絶えると、水平方向の慣性力は空気摩擦により急速に弱くなり、飛行を続けることができない。せいぜい、翼が生みだす揚力でグライダー飛行するだけである。

飛行機はエンジンが停止するか、機体が破損すると墜落する可能性が高くなる。

 

ミサイルにJアラートは役立たない

ミサイルの飛行軌道が明らかとなり、ミサイル先端の弾頭が陸上に着弾することが確定したとき、着弾位置の周辺にアラートが発声されると仮定する。アラートから着弾までの時間余裕は数分から10分程度。この短い時間内にミサイル着弾による被害を避けることが可能な施設に避難することができるのか。もし、核兵器爆発が発生したら、核シェルターに避難していなければ生き残れない。そもそも、日本では核シェルターは皆無に近い。

 

要するに、ミサイル攻撃を受けたとき、アラートに従って避難することは、不可能と考える。アラートで国民の生命を守ることは不可能。アラートがミサイル攻撃からの被害を防ぐのに役立つとは思えない。

 

北朝鮮ミサイル実験の場合、ただ単に、国民に恐怖を与えるだけである。

 

結論

Jアラートは弾道ミサイルに対しては全く意味がない。弾道ミサイル攻撃に対して個人にできることはほとんどない。自然災害への警報としては有益であるが。

 

参考

Jアラート https://ja.wikipedia.org/wiki/全国瞬時警報システム

 

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