原子力、エネルギー、放射線についての解説

 

放射線測定技術について(友人の質問に答える)

 

Q 福島事故の技術的なことを知りたいが

技術的なことは関係者の調査により次第に明らかになります。何が原因で、どう事故が展開し、その結果として何が起きたのか、ということが明らかになるはずです。
とりあえずの分析は、私のWebサイトを参考にしてください。「福島事故、放射線に関係するWebサイト」の中の、二ノ方氏および飯尾氏のスライドを参照してください。

私の関心は別のところにあります。
何故、事故に至ることになったのか?
何故、対策にミスがあったのか?
何故、対策を間違えたのか?
など、ヒューマンファクターに関心があります。

想定外であったという言い訳でなく、何故、想定することができなかったのか?
津波、地震についても地震専門家が「これではダメ」と言っていたにも関わらず、その指摘を原子力推進側は無視している。

 

地震・津波への安全対策をとるように種々の専門家や政治家(例えば、吉井英勝衆議院議員)から度々東電は指摘されていたにも関わらず東電は何も対策を講じなかった。そして3.11を迎えている。IAEAで事務次長をしていたブブルーノ・ペロードは「福島原発事故は東電の尊大さが招いた東電型事故」と指摘した。天災ではなく人災であった。[参考1]

 

ヒューマンファクターあるいは技術情報伝承のミスは、原発に限らず多くの産業分野でも起きていると考えます。

 

原発をなくす方向にエネルギー政策を180゜変化させることは有り得えますが、その場合、原子力に代わるエネルギー、電力源をどう開発するのかと言う課題が出てきます。原発を廃止したとしても、放射性廃棄物の管理に多額の費用と人材が必要です。話しは簡単ではありません。

 

Q ほとんど毎日マスコミで放射線量の報道がなされますが、その線量はだれがどのような方法で測っているのですか?

2011.3.11の事故発生時に近い、初期の測定は福島県内に多数設置されていたモニタリングポストによって行われました。モニタリングポストには数種類の放射線測定器、記録装置、データ送信装置などが入っており、無人気象観測装置に似た機能を持っていると考えて良いと思います。測定データは通信回線を通して自動的に所管のデータセンターに送られます。文科省の発表を見ると、自衛隊、警察、などが管理するポストがあり、モニタリングポストのデータは文科省が集約し、文科省のHPに毎日公開されました。

 

なお、飯舘村で高い線量が計測されたにも関わらず、直ぐに人が現場に出向いて測定することがなかったようです。数値が高い場所は測定し易すいので、高線量の場所を特定することや、状況を把握することを何故早くやらないのかと疑問に思っていました。

 

その後、恐らく数週間が経ってから人がサーベイメータを持って現地に入るようになったと想像しています。文科省関係の場合、大学や研究機関の放射線に関係が深い部署の人達が現地に出向いて放射線測定を行ったのだろうと想像しています。

 

最初は空間線量を測定し、次に土壌中の放射能濃度を測定したようです。ガンマ線を放射する核種(セシウム-134,137、 ヨウ素131,135)が測定されました。
アルファ線の測定は測定技術が特殊であるため、新聞・TVの報道を見る限り特定の大学の人達のようでした。

 

広域の測定は航空機から行われました。ヘリコプターあるは飛行機を、あたかもゴルフ場の芝を刈るように、地図上を網羅するように飛ばせ、連続的に測定します。東京都と神奈川県を含むデータが2011年10月6日に文科省から公開されました。

 

ストロンチウム-89,90はガンマ線を放射せず、ベータ線のみを放射する核種です。放射性ストロンチウムを測定するには化学分離と特別な放射線測定器が必要です。これが、放射性ストロンチウム測定が遅れている理由でしょう。

 

Q ベクレルとシーベルトは原理の違う計測器で測っていますか?

ベクレルとシーベルトの両方を1つの測定器で求めることは不可能ではありません。しかし、現実には放射能(ベクレル)を測定する場合と線量(シーベルト)を測定する場合では異なる測定器を使用します。

 

線量(シーベルト)の測定

線量はポータブルな放射線サーベイメータで測定することができます。検出器が発生する信号からシーベルト単位への演算をして、デジタル表示をするサーベイメータが今や主流です。そのため、放射線を捉える検出器(センサー)および演算がしっかりとしたものか、簡易なものかによって出力数値の信頼度に差が出ます。

 

検出器(センサー)には、GM計数管(俗称ガイガーカウンター)、シンチレーションカウンター、半導体検出器などがあります。

 

シーベルトという単位は人体組織が吸収する放射線エネルギーの密度(J/kg)グレイを基にして生物学的影響を評価する単位です。外部被ばくの場合、体の外から全身が被ばくしたときの吸収線量(単位はグレイ)を基に実効線量(単位はシーベルト)が決められます。実効線量(シーベルト)は健康管理のために使用されます。

 

ベクレルの測定

食品に含まれる放射能濃度を測定する装置は線量測定(シーベルト)のときよりも大がかりです。測定に携わる人は測定技術を理解していることが必要です。

 

ベクレルは放射性原子核の放射能力を表す単位です。1秒間に1個の壊変を1ベクレルと言います。サンプルの中に存在する放射性原子核の数に比例して放射能(ベクレル数)は大きくなります。そのため、重さ1kgあるいは体積1Lの中に含まれる放射能量、すなわち放射能濃度として表現されます。

例えば、「1kgの食品に含まれるセシウム-137が500ベクレルである」と表現します。その食品を10kgもってくれば、含まれるセシウム-137の放射能量は10倍の5000ベクレルになります。

式で表現すると以下のようになります。

formula

ここで、dN/dtが毎秒の壊変数すなわちベクレル値、T1/2が秒単位で表した半減期、Nが試料に含まれている放射性物質の原子数です。ln2=0.693です。

 

放射能測定は試料に含まれる放射性核種を決定しなければ意味がありません。放射性原子核から放射されるガンマ線のエネルギーは、放射性原子核の指紋です。ガンマ線を放射するセシウム-137、ヨウ素-131などの指紋はガンマ線エネルギースペクトルの解析から判別されます。放射性物質の判別に加えて各々の壊変数が測定されます。壊変数を測定時間(秒)で割れば放射能(ベクレル)が決まります。

 

ガンマ線スペクトルはバックグラウンド放射線を遮蔽する装置の中に置かれたゲルマニウム半導体検出器を用いて測定されます。バックグラウンド放射線が少ない条件で測定が可能な装置は1千万円以上と大変高価です。

 

Q トレーサビリティ

吸収線量(グレイ)測定の基本は放射線が空気を電離することによって発生する電荷量を測定することです。この場合の放射線測定器は電離箱とよばれるものです。電離箱は2枚の平行平板電極に挟まれた空間内に放射線によって生み出された電荷量を正確に測定します。1個の電荷(電子がもつ電荷に等しい)が生み出されるために必要なエネルギー値が分かっており、測定された電荷量から吸収されたエネルギーが決まります。電離箱の測定空間内の空気の質量で除することによって吸収線量が求められます。

 

標準システムは標準電離箱と標準X線源から構成されています。標準となるX線管から放射されるX線の照射によって生成される電荷量を測定することによって電離箱の出力が較正されます。較正においては電離箱に接続された電流計も較正の対象です。

 

線量測定に関する世界の基本標準はフランスの国際度量衡局 BIPM (Bureau International des Poids et Mesures)にあります。一次標準が約20カ国に置かれており、一次標準はBIPMの基本標準と比較することによって国際間の一貫性を担保しています。

 

日本の一次標準はつくば市の産業技術総合研究所(旧計量研究所)にあり、この下に幾つかの二次標準があります。

 

以下を上記のように訂正しました。2012.5.31

世界標準のシステムは確かドイツにあり、日本の標準システムはつくば市の産業技術総合研究所(旧計量研究所)にあります。日本の標準電離箱はドイツの基準センターに持ち込まれ、較正されます。国内には日本標準の下に幾つかの2次標準があります。

 

Q 幼稚園児に持たせるような簡単な線量計をTVで見たことがあります。
  それの原理は?信頼性はありますか?

私はそのTVを見ていませんが、幼稚園児に線量計を持たせるとは驚きですね。
多分、安価で小さいものでしょう。センサーは小型GM計数管でしょう。値段も2〜5万円のものだと思います。

 

GM計数管(俗称 ガイガーカウンター)の動作原理は以下のとおりです。
金属製円筒の中に約0.1気圧のアルゴンが主成分である計数ガスを詰め、封じきります。放射線が入射すると計数ガスが電離されます。電離によって発生した電子は円筒中心にある陽極に向かって加速され、エネルギーを得ると再びガスを電離します。これがネズミ算式に増えて信号が形成されます。仕組みが単純であることが利点です。ただし、放射線の種類やエネルギーを区別することができず、放射線由来の信号が発生したことだけを教えてくれます。

エネルギー情報がないため、吸収線量を出力するところに無理があります。信頼性はシンチレーション方式や半導体検出器方式に比べて劣ります。しかし、安価で手軽に使用できることが魅力です。

 

小型のシンチレーターを放射線センサーとして組み込んだ線量計ならば信頼性が高くなります。10万円を少し越える値段で販売されていますので、予算に余裕がある方はシンチレーション型の線量計を購入されることを薦めます。

 

その他に、小型半導体検出器をセンサーとして組み込んだタイプもあります。これはGM計数管タイプよりも信頼性があると思います。

 

多くの人は表示されるデジタル数値を簡単に信用してしまいます。毎時0.1マイクロシーベルトは非常に微小な線量です。微小なものを測定することは簡単ではありません。放射線の発生も、放射線検出の現象もランダムなものであり、規則的なものとは全く別の世界のものです。

 

参考1
http://ja.wikipedia.org/wiki/福島第一原子力発電所事故

 

 

原子力、エネルギー、放射線