原子力、エネルギー、放射線についての解説

 

原子力の補助説明

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(1)制御棒が挿入されてから連鎖反応が停止するまでの時間は?

2011.6.10 訂正

事実上、数秒で停止する。
制御棒の挿入は2〜3秒の時間で終わる。これに伴い、核分裂連鎖反応の99.4%をまかなう即発中性子が瞬時(1000分の1秒以下)になくなり、核分裂反応の大部分が停止する。この時点で、核分裂反応が直に発生する熱量は、核分裂生成物の崩壊熱とほぼ同じレベルまで減少する。残りの0.6%の核分裂反応は遅発中性子によって起きるが、これも急速に減少する。最後は、半減期が一番長い遅発中性子先行核(Br87の55秒)が起こす少量の核分裂反応であり、これも10分後には非常に少なくなる。

背景にある物理は次のとおり。
ウラン235の核分裂反応では、平均して2.5個の高速中性子が同時に発生する。この中性子を即発中性子と言う。


他方、核分裂で生成される原子核の中に、割合は少ないがベータ崩壊の後に中性子を放出するものがある。この中性子は、核分裂反応の時点からベータ崩壊の時間だけ遅れて発生するため、遅発中性子と呼ばれる。遅発中性子を放出する原子核を中性子先行核という。中性子先行核には半減期が1秒以下から数十秒のものまで幾つかある。平均の半減期は約9秒。この自然の偶然が人間による原子炉の運転制御を可能にしている。

(2)福島原発では何故冷温停止に至らないのか?

正常な運転停止では、燃料棒は十分な冷却水で囲まれている。燃料中心部から水までの距離はたかだか1cmかそれ以下であるため、冷却効率が高い。福島第2では1週間後くらいに冷温停止となっている。


他方、福島事故炉では、燃料棒が融解しており、大きな固まりとなって圧力容器の底部に溜まっていると想像される。そのため、高温の中心部から水までの距離が長く、冷却効率が低い。融解燃料の中心部がうまく冷却されない構造になっている。


(3)臨界とは?

連鎖反応の結果として毎秒あたりの中性子数が一定で時間による変化がない状態を臨界という。すなわち、毎秒あたりの核分裂反応数が一定である。核分裂反応数が増えも減りもしない。


これは、核燃料がもっている核反応余力(加速能力)と制御棒がもつ核反応停止力(制動力)がバランスした状態である。原子炉では、制動力が加速能力よりも大きくなるように設定されている。

 

自動車に例えれば、アクセルペダルの踏み込み量(加速)と運動摩擦力(制動)がバランスして、一定の速度で走る状態である。速度が速いか遅いかは関係ない。速度は原子炉の出力に相当する。

 

(4)連鎖反応とは?

ウラン235原子核が中性子を吸収して核分裂反応が起きると、平均として2.5個の中性子が発生する。この2.5個の中性子のうちの1個が再び、最初のウラン235とは別のウラン235に吸収されて核分裂反応が起きる。この状態が次々に起きるとき、核分裂反応が連鎖的に継続する。これを連鎖反応と言う。


(5)原子力発電の出力特性

2011.6.10 訂正

電力会社は発電電力(供給)と消費電力(需要)がうまくバランスさせないと、送電網が故障する。消費電力は勝手気ままに変動するので、それに追従するために種々の対策がとられている。
原子力発電は発電量を増やしたり、減らしたりするのが不得手であり、時間に対して一定の発電をする。ひとたび、定格運転に入ると一定の出力で原子炉が運転される。消費電力の増減に身軽に追従する動特性をもっていない。積荷を満載したダンプカーのごとく、加速も減速ものろい。
電力需要の少ない休日夜間は、電力のほとんどは原子力発電に依っていると推定される。
同じ火力発電の天然ガス発電ならば、燃料ガスの供給を制御すれば発電量を調整することが可能。その追従速度は約5%/分とのこと。10分で出力を50%に下げることが可能。

 

(6)アキレス腱

原子力のアキレス腱はプルトニウムも含めた放射性廃棄物である。使用済み燃料からプルトニウムおよび放射性廃棄物を分離する再処理政策が進められている。しかし、発生した廃棄物を保管する場所については、候補地すらないのが現状である。トイレのないマンションの状態である。
使用済み燃料の中間貯蔵ですら問題であることが福島第1の4号機で明らかになった。
問題の先送りを繰り返してきた結果が今回の事故ではっきりとなった。

米国は使用済み燃料をそのまま保管する政策であるが、最終的に保管する場所については未定である。一度はユッカマウンテンに決まりかけたが、最後に頓挫した。
候補地をもつ唯一の国はフィンランドである。
なお、日本は使用済み燃料の再処理が認められた核武装しない唯一の国である。

 

(7)軽水炉のタイプ

軽水とは通常の水H2Oのこと。軽水H2Oを用いる原子炉を軽水炉と言う。水素Hに中性子1個が追加された重水素Dで作られた水を重水(D2O)と呼ぶ。
水は2つの役割をもつ。
1つは核分裂反応で発生した高速中性子の速度を減速し、核分裂反応を起こしやすい低速中性子、いわゆる熱中性子を作ること。
2つめは核分裂反応で発生した熱を吸収し、核燃料を冷却すること。水は自然界に存在する最高の冷却剤である。

核反応熱を吸収した水が沸騰し、蒸気が発生する。蒸気を直にタービンに送り、タービンを高速回転させる。タービンが発電機を駆動し、発電する。タービンを出た蒸気は海水で冷却され水となり(復水器)、原子炉に戻される。タービンを駆動する蒸気は少し放射能を含む。制御棒は原子炉の底部から上に向かって挿入される。そのため、圧力容器の底部は幾つかのポートを備え、溶接箇所が多い。

圧力容器の中で高温の水を作る。炉内で沸騰させないために高圧とする。高温・高圧の水を蒸気発生器(細長いチューブのかたまり)に送り、熱交換を経て蒸気を発生する。蒸気でタービンを駆動し、発電する。タービンを駆動する蒸気は放射能を含まない。制御棒は圧力容器の上部から下に向かって挿入される。圧力容器の底部はシンプルな構造。元々、原子力潜水艦用に開発されたタイプである。最近の運転実績では、BWRよりもトラブルが少ない。

 

原子力、エネルギー、放射線