原子力のあり方を考える
毎日新聞の青野由利専門編集委員が3.11後のサイエンスとして「エボラ熱でも原発でも」と題する記事を載せていた(2014.11.27)。そこでは、エボラ出血熱に関する広報の日米格差が紹介されていた。もちろん、米国疾病対策センター(CDC)の方が国立感染症研究所よりもはるかに優れている。
そこで、原子力広報について日米比較をしてみた。福島第一原発事故のとき、日本では政府および東京電力からの事故情報の収集と発信があまりにもお粗末であった。放射線量率分布の観測では、日本は米国に遅れをとっていた。国民や海外の人々が知りたい情報を迅速にかつ分かりやすく発信することができなかったことは鮮明に記憶されている。
上記の記事に誘発されて原子力規制委員会と米国NRC(Nuclear Regulatory Commission)のホームページを見比べてみた。
まず、図1の規制委員会を眺めると、再稼働審査の枠があり、その下には新着情報として会議資料の一覧が詳しく出ている。どうやら会議資料が最重要である。右側の欄は事務的な情報の掲示。これでは、原子力関係者に向けた情報が全てと言っても過言ではない。
一般の人々が知りたいことは、福島第一原子力発電所の状況や展望、放射線や健康被害、廃炉とは何か、原子力一般などであろう。要するに、委員会が広報したいことと国民が知りたいことの間に大きな乖離がある。
図1 規制委員会のホームページ http://www.nsr.go.jp |
次に、米国NRCホームページのトップページを下に示す。
図2 米国NRCのホームページ http://www.nrc.gov |
最新のニュースの写真が最上段にある。流したい情報の項目があり、左の枠には「Japan Lessons Learned」(福島事故の教訓)がある。日本で起きた事故を分析し、米国の原発の安全に役立てる意志が見える。この項目をクリックすると以下のページが出てくる。
図3 米国NRC 福島事故の教訓 http://www.nrc.gov/reactors/operating/ops-experience/japan-dashboard.html |
福島第一原発4号機で問題となった使用済核燃料貯蔵プール、洪水、非常時対策、フィルターベントなどの項目が美しく、読者を引きつけるように挙げられている。これならば、普通の人々でも読んでみようという気になるであろう。
日本の原子力規制委員会は国民の方を向いたホームページを魅力ある体裁で作ることに、もっと費用と人材を投入するとよい。IT技術を駆使した知的活動は日本のイノベーションに通じる。官庁の人々も、目方のないもの、知財をもっと重視して欲しい。