原子力のあり方を考える
原子力規制委員会は再稼働の申請が出された原子力発電所について審査を行い、再稼働の是非を決定する。再稼働が認められた原発は安全性が認められたので、その原発は安全であると主張する人々がいる。例えば、安陪総理は、日本の規制基準は世界で一番厳しく、その基準をクリアーした原発は(世界で一番)安全であると述べている。しかし、総理大臣が原発の安全性を強調しても、それには効力はない。
他方、規制委員会の委員長は、再稼働審査は安全性を審査したものではないと述べている。すなわち、規制委員会は、再稼働申請が新規制基準を満足しているのかどうかを調べ、新基準に適合したものに対して再稼働を認める。繰り返すが、規制委員会は原発の安全性を保証する役目を負っていない。
私も、再稼働の適否は安全性の保証とは別物であると考える。規制基準を満足することは安全性を向上させるものであることは認めるが、だからと言って、原子力事故はもう起きないと考えることは早計である。
福島第一原子力発電所において人類史上で最悪の原子力事故が発生した原因が想定を超えた巨大地地震であったとされている。2011.3.11以前の時点で、東北地方の太平洋沖でM9クラスの巨大地震が発生することは予知されていなかった。このことは2007年に文部科学省が公表した地震動予測地図2007から明らかである。
図1 福島第一原子力発電所(手前が4号機) 1990年6月 |
地震予知とは別に、過去の巨大地震の調査研究が貞観地震(869年)について行われており、その情報は東京電力にも伝わっていた(吉田調書より)。しかし、貞観地震規模の地震が次にいつ起きるのかが分からないために、対策が採られることはなかった。起きることが確かでない事態に対処することは工学的に不合理であると判断された。例え、対策工事を始めていても、2011.3.11には間に合わなかったと思われる。
九州電力の川内原子力発電所の再稼働申請にあたっては、津波対策が新規制基準を満たしていること等の理由から、再稼働が認められた。他方、火山学者は桜島の巨大噴火が原発に及ぼす危険性を指摘した。しかし、巨大噴火がいつ起きるのかを予測する科学知見がないことから、火山活動の異変を感知した時点で原子炉を停止し、使用済核燃料を避難すれば対処できるので心配はいらないとされた。
起きることが確かでない災害に対処することが合理的でないとの判断である。この判断は、福島第一原発と貞観地震の関係と似ている。
ある家が空き巣に入られたとしよう。その場合、玄関ドアーの錠前がピッキングによって開けられたとしよう。被害者はピッキングができない錠前に交換するか、錠前を1個追加する。これで空き巣に強い家になったと考える。しかし、数ヶ月後に、庭先の吐き出し口のガラス戸のガラスが割られて侵入された。ガラス戸の防備を強化すると、次は風呂場の窓から侵入された。このように、弱点が明らかになった後に対応するだけでは、防犯対策は万全とはならない。
ここで、原子力事故を考えてみよう。福島事故では津波によって冷却水をくみ上げる海水ポンプや非常用ディーゼル発電機などが破壊された。この部分をへの対策を施し、フィルターベントなどを追加すれば万全なのだろうか?
次に事故が起きるとすれば、規制委員会が指摘した項目とは別の原因・弱点によって引き起こされると思う。原子力事故を二度とおこさないためには、電力会社は外部から指摘される項目だけへの対処に加えて、自らが弱点(次の事故の原因となる可能性)を絶えず考え、改善することが肝心である。他力本願では事故を防ぐことはできない。