Fukushima Nuclear Disaster

 福島原子力災害を経た原子力のあり方

原子力から水素まで

 

SS様宅での講演レジメ  2015年5月

(1)はじめに

エネルギーは機械を動かすためや、生物が生命を維持するために必要なもの。
ロボット、ドローン、宇宙探査機などにとってもエネルギーは不可欠。

 

エネルギー問題は、広い視野、大きな枠組みで捉えなければいけない。
残念ながら、多くの専門家は自分の専門分野しか見ていない。

一次エネルギー
二次エネルギー                    一次エネから生産される電力、水素など

 

INihon tiji Energy

図1 日本の一次エネルギー構成の福島事故前後の比較

資源エネルギー庁のエネルギー白書より

 

原発ゼロであっても、化石燃料の輸入費がたかだか10%増えるだけの話であり、
日本経済を根底から覆す問題ではない。省エネ、再生エネ、節約で対応できる。
図1は日本が消費するエネルギーの大部分が化石燃料であることを示す。

  • 日本の発電量の電源別の比率

電力は重要な二次エネルギーであり、電気は品質の点で最高のエネルギーである。現在の日本では、石油、天然ガス、石炭を燃料とする火力発電が発電量の80%以上を占めている。
図2は発電量を資源別の比率を比べている。2010年度のデータは福島原発事故が起きる前の時代を代表する。2012, 2013年度は国内の原発のほとんどが停止している。稼働を停止した原子力発電の分だけ化石燃料による発電が増加している。

 

Hatuden Ryou

図2  資源別の発電量比率

エネルギー白書2014より

 

エネルギー利得率=発生エネルギー/( 採掘、輸送、設備、加工、廃棄物処理等のエネルギー)

 

経済利得率=売上/(燃料、設備、販売、環境対策、廃棄物処理等のコスト)

                      

        原子力発電の場合、経済利得率が1以上となる証拠がない

 

(2)原子力発電の利点と欠点

  • 利点

長時間安定に稼働する
燃料補給が1年に1回程度
燃料費が安い(処理費を含まない)

  • 欠点

需要に応じて出力を増減することが難しい
放射性廃棄物が大量に発生                             

  100万kW×1年で1.2トン
放射性廃棄物の処分場所が未定                       

  フィンランドだけが確保
廃棄物保管の時間が非常に長い
データを数百年先まで保管する技術?
プルトニウムが生産される (核兵器への転用)
システムが非常に複雑 (核、化学、熱、電気)

高放射線のため炉心に近づけない
炉心材料が中性子照射を受け損傷する  (40年寿命の根拠の一つ)
事故が起きると被害が甚大

 

(3)原子力政策

  • 国策民営                       

立地自治体へ多額の交付金、
事故処理にも税金

  • 再稼働

福島事故の反省がないままの再稼働
原発停止を貿易赤字の主原因とすることは間違い
ベースロード電源が必要だから再稼働が必要であるという説明 
(事故前はベースロード電源であった)
原子力規制委員会の審査に合格しても安全とは言えない
次の事故は誰も予想しない原因で起きる
再生可能エネルギー買い取りを拒否して再稼働を支援

  • 核燃料サイクルを止めない

六カ所村の再処理工場は2001年に完工したが、2015年になっても未完成
日本は英仏で行った再処理から得た余剰プルトニウムを既に44トンも保有

  • 高速増殖炉「もんじゅ」

1995年12月にナトリウム漏れ事故を起こして以来、停止したまま
研究施設の賞味期限はとうに切れている
毎年200億円の経費
20年停止したため人材が枯渇した
核兵器に好都合な高純度プルトニウム239を生産

  • 問題の先送り

除染技術は未完成
現状は汚染土壌を別の場所に移しただけ
福島避難者の将来が未定
核廃棄物の処分

  • 核武装が本音か?

核燃料サイクル計画を継続
プルトニウムを抽出する再処理工場を放棄しない
高速増殖炉「もんじゅ」を放棄しない

海水を取り込む水冷方式であり、津波の被害を受けた
欧米では内陸部に設置されるものが多く、クーリングタワーを用いた空冷
非核保有国であるが使用済核燃料の再処理が認められている唯一の国
   しかし、これが国際問題になりつつある
地震・火山帯にある
集中立地 (柏崎刈羽には7基も)
安全神話に惑わされている

Jisin M7 Genpatu

図3 地震発生地帯と原発立地

黒点が原発立地点であり、茶色がM7以上の浅い地震発生地帯を指す。 AERA臨時増刊 『原発と日本人 100人の証言』朝日新聞社 P45より抜粋

 

上図を見ると、多くの原発は地震地帯からはずれた地帯に立地していることが分かる。日本の原発は全て地震地帯にある。米国では西部の数箇所が地震地帯にあり、カルフォルニア州南部にあるサンオノフレ原発は廃炉を決定。

 

(4)水素のエネルギー利用

水素のエネルギー利用が始まった

水素は、あたかも水素資源が存在するかのごとくに語られている。 しかし、これは誤解を招く。

例1は横浜青葉台地区に配られたタウンニュース(図4)の記事である。地元の衆議院議員が水素エネルギーに未来を託す抱負を述べている。しかし、この記事は誤解を招きやすい。原発にも、化石燃料にも依存しないということは、太陽エネルギーから二次エネルギーとなる水素を製造することを意味する。 その意味で議員氏が述べたならば正しいが。

 

Suiso by Fukuda
図4 タウンニュース2015.03.05より抜粋

 

例2は下の囲み内の毎日新聞の特集記事である。大学教授が水素燃料の火力発電に替えてゆくことを提案している。しかし、これは何かの間違いであろう。水素があるならば燃料電池で利用する方がスマートである。水素を燃焼して火力発電することに魅力はない。

 

M教授の試算によると、シェール革命で石油は約100年、天然ガスは
約185年に残存年数が延び価格も急落した。「リスクの軽減と経済効率性、環境性を考えた戦略的な組み合わせは火力プラス再生エネ、さらに火力を水素燃料に替えていくことなのです」と主張する。

 

燃料電池自動車

水素ガスを燃料として発電し、その電気で動く。

究極のエコカーか?

エネファーム

天然ガス(メタンガス)から水素を取り出し、

燃料電池で発電。廃熱で温水をつくる。

 

水(H2O)の電気分解から得られる。水素を含む原料、例えば、メタンガスや
メタノールなどから化学反応によって製造される。いずれの場合でも、外部から
エネルギーを投入して人工的に製造する。

光触媒を用いて太陽光と水から水素(H2)を製造する研究が進行している。変換効率は植物の光合成の0.2%よりも高い2%。目標は10%とのこと。

 

Suiso Tukurikata

図5 水素の作り方
毎日新聞(2015.04.23)の記事から転載

 

(5)地球温暖化

19世紀以降、CO2濃度が増え、気温が上昇している。
しかし、CO2が気温上昇の原因なのか?
温暖化の後にCO2が増加するという観測データあり
太陽活動の活発化 ⇒ 宇宙線増加 ⇒ 雲増加 ⇒ 温暖化 ⇒ CO2増加

化石燃料の使用、原子力発電による廃熱が地球を加熱する。
再生可能エネだけならば地球を加熱しない?

水力、太陽光発電、風力、バイオマス(育てた樹木、植物)など
CO2発生は減少する。
地球を加熱しないので、温暖化しないと思うが、果たして可能?
  大規模にやり過ぎると地球環境への影響は甚大
  (例えば、巨大な太陽光パネル、宇宙発電)

政府は4月24日、2030年の温室効果ガス排出量を今より約約25%減らす目標案と、総発電量に占める原発の割合を20〜22%とする案を了承した。それでも、温室効果ガスの削減目標は欧州連合(EU)などの水準を大きく下回っている。
(毎日新聞 2015.04.25)

 

CO2 Haishutu
Genpatu Izon Tuzuku
図6 温室効果ガス削減目標
図7 原発依存目標

 

政府は将来の電力源構成を検討しているけれども、未来のビジョンを画くことができていない。地球温暖化への対策として再生可能エネルギーの開発は本命であり、これを軽視することは日本の将来に禍根を残す。残念ながら、現在の日本(資源エネルギー庁)は原子力を含めた既存の産業の利権を守ることに捕らわれている。

 

表1は日本、ドイツ、フランス、中国における原子力および再生可能エネルギーの将来ビジョンを比較している。

 

Denryokugen Hiritu Kunibetu

表1 電力源比率の現在と将来を国別に比較

 

ドイツは2022年末に余剰プルトニウムを使い切った後、原子力発電を停止する。原子力を補完するために、再生可能エネルギーの比率を高める計画である。

 

世界最大の原子力発電国であるフランスでさえ、現在の原子力75%を2025年に50%まで削減し、再生可能エネルギーを15%から40%に拡大する計画を立てている。

 

中国政府は2015年に野心的な計画を発表。実現可能性は定かでないが、再生可能エネルギーを2030年に53%まで高める。2050年に86%とすることが可能であると述べている。

 

他国と比べて日本の取り組みに熱意が弱と言わざるを得ない。

 

(6)結論

 

(7)参考資料

 

(8)附録

  • 軽水炉の仕組み

火力発電の一種である。原子核分裂反応から発生したエネルギーで水を加熱し、蒸気を発生する。この後は通常の火力発電と同じ。蒸気タービンに直結された発電機が発電する。

原子核分裂反応で発生した高速(光速の1/10程度)の中性子を軽水(H2O)と衝突させ、熱運動速度(2200m/s、音速の6倍)まで減速させた後、ウラン235と原子核分裂反応をさせる。ここで発生した高速中性子が、再びウラン235と反応する連鎖を継続させる。これが連鎖反応の制御である。

 

  • 東京電力(福島第一原子力発電所)の原子炉

沸騰水型熱中性子炉 (BWR)
原子炉容器   直径 数m     高さ 約20m
燃料棒       直径 約1cm     長さ 約4m
核燃料は、ウラン235が0.7%から3%〜5%に濃縮したもの
100万kWの原子炉を1年間運転するとウラン235が1.2トン消費され
放射性廃棄物が1.2トン発生する

 

BWR System

図8 沸騰水型軽水炉(BWR)の仕組み

BWR画像集より転載

 

  • 福島第一原子力発電所 1号機の現在

福島第一原子力発電所では、6基ある原子炉のうち3基の核燃料がメルトダウンした。そのうちの1号機の状態を図4に示す。2015年3月に、東電からミュウ電子を用いたデブリ検知の速報が公表された。デブリはウランがジルコニウムや鉄などと溶け合ったものを指す。


Fukushima-1

図9 福島第一1号機の状態

核燃料はメルトダウンしている。右端の白黒画像はミュウ電子によるデブリ検出を試みたもの。

 

上図の右端に見える白黒画像がデブリ検出の画像である。格納容器の下部は地下に潜っているため、地表よりも上にある圧力容器の内部だけが測定された。ミュウ電子は(電荷密度および質量密度が高い)ウランによって強く散乱される。散乱されたミュウ電子を特殊な写真フィルムで検出した。もし、圧力容器にウランが残っていれば、黒い影が写ったはず。

高速中性子による増殖が低速の原子炉である。
高速中性子をウラン238(天然ウランの99.3%)と反応させ、プルトニウム239を生産する。プルトニウム239はウラン235と同様の核燃料となる。あたかも、ウラン資源を国内で生産することが可能であるように思える。
核燃料を生産すること(増殖すること)が可能な原子炉である。しかし、消費した核燃料の2倍の核燃料を生産するには90年を要する。

物理学の定義は、エネルギー=力×距離
単位はジュ−ル(J)

エネルギー量を時間で割ったものがパワー
1ジュール/1秒が1ワット(W)

電力ではエネルギー使用量の単位としてkWhが使用される
1kWh=1000J/S×3600S=3.6X106J=3.6MJ

エネルギー利用と環境問題は表裏一体

地球が内蔵する資源の利用を除いたもの
太陽エネルギーや天体運動などに起因するもの
水力、風力、太陽光発電、太陽熱発電、太陽温水、潮力、地熱

発電時に発生する廃熱も利用する
エコキュート
エネファーム

家庭では自動車によるエネルギー消費が増加している。自動車の大型化が原因

 

Setai Atari Energy

図10 世帯あたりのエネルギー消費の推移
資源エネルギー庁のエネルギー白書2014

 

発電方法(燃料)の最適な構成比率のこと
福島事故で議論する意味がなくなったと思う

フィンランドでは60cmの断熱材、4重の窓 (1984)
ドイツでは断熱性能の規制あり(新築の場合)

電力の需要は春夏空き冬の季節、1日の時間帯によって変動する。電力会社は需要に応じて発電量を増やしたり、減らしたりしている。
1日の間、時刻とは関係のない一定(ベース)の需要(ロード)に対応するものをベースロードと言う。時間変動のない発電をするものがベースロード電源

Base Load Dengen
Kisetu Denryoku Hendou
図11 ベースロード
図12 季節ごとの電力需要変動
中部電力のHPより

 

Fukushima Nuclear Disaster  福島原子力災害を経た原子力のあり方