Fukushima Nuclear Disaster

 福島原子力災害を経た原子力のあり方

 水素爆弾について

2017.03.28

はじめに

広島・長崎に投下された原爆で威力は十分過ぎるのにも関わらず、なぜそれより50倍から100倍も威力が大きい水爆が開発されるのか。私には理解できない。

 

本解説の基になっている情報の多くはインターネットに公開されていた。しかし、そのようなサイトの幾つかは機微な情報を含んでいたせいか、北朝鮮が水爆開発に手を染めるころに遮断された。

 

公開情報を基にして、私が理解する範囲内で、できるだけ易しく「水素爆弾」を説明してみたい。

 

核の機密

核兵器に関する最も重要な秘密は、それが実現したという事実である。1938年12月に原子核分裂の現象が発見された。それから丸7年も経たないうちに、1945年に原子爆弾が広島と長崎に投下された。

 

この情報は、すでに始まっていた東西冷戦の相手国であるソビエトに原子爆弾が製造可能であることを知らしめた。重要な回答を得たソビエトは核分裂原子爆弾の開発に着手し、しばらくして原子爆弾を完成させた。

 

水爆を目指した理由

核分裂反応に基づく原子爆弾の威力を大きくするには、核分裂反応を起こす材料のウラン235あるいはプルトニウム239の量を多くすればよい。しかし、核分裂反応の場合、材料の塊が臨界質量(補足説明1)を超えると自然に核分裂連鎖反応が起きる。それを防ぐために大量の原材料を臨界質量未満に小さく分割しなければならない。

 

そのような場合、何らかの人為ミスあるいは機器の誤作動によって、臨界質量を超える塊ができると、暴発する。

 

原材料をもっと多くすると、核兵器のサイズが大きくなり、重量も増える。大型原爆はミサイルへの搭載に不向きとなる。

 

以上の事情があるため、核分裂原子爆弾の威力を広島・長崎型の何倍も、何十倍も大きくすることが難しい。すなわち、威力拡大に制約がある。その制約を乗り越える兵器が水素爆弾である。水素爆弾を省略した言葉が水爆。この名称は、通常爆弾の火薬に相当する物質が水素の同位体であることに由来する。

 

水素の同位体

全ての原子核は陽子pと中性子nから構成される。陽子の個数が同じで、中性子の個数が異なるなるものを同位体と呼ぶ。表1に示すとおり、陽子数1の水素では、3種類の同位体が存在する。

 

名称

元素記号

陽子数

中性子数

質量数

自然存在比
(%)

半減期

水素
軽水素

H

1

0

1

99.9985

 

重水素

D

1

1

2

0.0015

 

三重水素
トリチウム

T

1

2

3

0

12年
β壊変

リチウム-6

6Li

3

3

6

7.5

 

表1 水素の同位体およびリチウム-6

 

重水素原子核Dは陽子と中性子が弱く結合した原子核である。その重水素原子核Dにもう1個中性子が結合したトリチウム原子核Tは、結合が重水素原子核Dよりも更に弱く、不安定となり、ベータ壊変する。トリチウムは核実験や原子力発電に伴う人工的なものしか自然界に存在しない。

 

原子核融合反応

2個の軽い原子核が融合(合体)して重い原子核が生成されるときエネルギーが発生する。この現象は、鉄ぐらいの中くらいに重い元素が作られる場合まで起きる。これは多数の原子核反応を観察して得られた自然法則である。

 

水爆のエネルギー源は2個の原子核、重水素DとトリチウムTの核融合反応である。その反応は式(1)で記述される。

  D + T = 4He + n + 17.6 MeV  (1)

反応後の右辺はヘリウム原子核(4He)、中性子nおよび17.6MeV(補足説明2)のエネルギー発生を表す。この反応は核融合反応として最大のエネルギーを発生する。

 

式(1)では原料が重水素DとトリチウムTとなっている。しかし、トリチウムは半減期12年で3Heに壊変する。つまり、トリチウムが時間経過と共に減少し、兵器としての性能が落ちる。この点を補うために、起爆装置の核分裂原爆が発生する中性子を利用して水爆内部でトリチウムを作り、それを核融合反応(1)の燃料にする方法もある。

 

トリチウムは、リチウム6Liと中性子の核反応から作られる。

  6Li + n = T + 4He + 4.8 MeV  (2)

ついでに、エネルギーも発生する。水爆の核燃料は重水素とリチウムを結合させた重水素化リチウムD6Liである。6Liの同位体存在比は7.5%である。そのため、6Li同位体を濃縮したものが利用される。

 

水爆が発生するエネルギー量

1回の核融合反応が発生するエネルギーはウランやプルトニウムの核分裂反応のエネルギー200MeVよりも1桁少ない。けれども、D,Tの質量をウランと同じ質量にした場合に発生するエネルギー量は(3)式で表される。

 

  17.6MeVx235/5=827MeV  (3)

この数値はウランの原子核分裂反応が発生するエネルギー200MeVの4倍である。

単純化した計算であるが、装填する原料の質量が同じであれば、4倍のエネルギーと言える。

 

他方、核融合反応には核分裂反応における臨界質量という制約がない。核融合燃料の量に比例して爆発の威力を高めることが可能である。

 

水爆はメガトン級の威力を持つと言われる。それは、爆発の威力が100万トンのTNT火薬に相当することを指す。

 

核分裂原子爆弾の威力はTNT換算で10キロトン程度である。

  100万トン/10キロトン=100倍   (4)

すなわち、1メガトン水爆は広島・長崎原爆100個分の威力を持つ。

 

核融合反応の難しさ

核融合反応を実際に起こすことは大変難しく、高度な技術が必要である。重水素のガスD2とトリチウムのガスT2を単純に混ぜただけでは何事も起きない。気体よりも密度の高い液体D2と液体T2を混ぜても核融合反応は起動しない。

なぜ起きないのか?

反応式(1)に現れるDとTは水素同位体の原子核であり、正の電荷を持つ。厳密に表記するとD+、T+である。

 

原子核反応が起きるためには、D+、T+の両者が、核力が有効になる距離(10-15m)まで接近しなければならない。けれども、両者は同じ極性の正電荷を持つため、クーロン力によって、互いに反発しあう。反発力が距離の2乗に反比例して強くなり、近づけば近づくほど強く反発しあう(図1)。この状況を如何にして克服し、D+とT+を衝突させ、融合させることが課題となる。

 

Denka Hanpatsu
図1 クーロン力による反発
同じ電荷をもつ粒子は互いに反発しあう

 

しかも、爆弾として威力を発揮するための要件は、できるだけ短い時間内に、できるだけ多くの原子核融合反応を起こすことである。短い時間内に近接回数を増やすにはD+とT+の高密度状態(図2)を作り出せばよい。そのためにはクーロン反発力を押さえこむ外力が要る。具体的には慣性力を用いて高密度状態を作る。

 

Denka Gairyoku
図2 電荷を押し込む外力

 

高密度状態を作る過程でDとTは加熱され高温状態が生まれる。高温になるとD、Tの原子から電子が離れ、水素同位体イオンと電子の混合状態、すなわち、プラズマが形成される。固体密度を超える超高密度プラズマの生成と制御が鍵である。

 

原爆の核分裂連鎖反応を仲介する粒子は電荷を持たない中性子である。プルトニウム原爆では、プルトニウム同位体の半減期がウランよりも短く、自然核分裂の発生が多いため、火薬を使って核物質を爆縮(補足説明3)する。

 

核融合反応を利用する水爆の場合、火薬による爆縮では核融合反応のスイッチが入らない。それを克服する仕組みが慣性閉じ込め核融合である。

 

水爆の構造

水爆の大まかな構造を図3に示す。プライマリーは核分裂反応に基づく原爆である。これが発生するX線が水爆本体を起動する。セカンダリーは水素同位体の核融合反応を起こす部分であり、水爆の主要部分である。

 

Teller-Ulam

図3  Teller-Ulam配置と呼ばれる初期水爆のコンセプト
出典 https://en.wikipedia.org/wiki/Thermonuclear_weapon

 

慣性閉じ込め核融合

DとTを含む核燃料材料に外部から慣性力を与え、核燃料を瞬時に高温・高密度に爆縮する。慣性力とは、ゴルフボールをゴルフクラブで打ち、撃力によってボールを前方に飛ばすことに例えることができる。

 

水爆によっては、原爆が発生する中性子を6Liと反応させ(式(2))、水爆本体の内部でトリチウムTが製造される。

 

慣性閉じ込め核融合の大まかな概念を図4に示す。これは筆者が想像する模式図である。中心部にDT核燃料を集中させ高密度状態を作るために、幾何学的な対称性が重要である。そのため、まず球対象が考えられる。これに加えて、図3に示す軸対象の円筒形も想定可能である。円筒形の場合、中心部の空洞に詰め物を入れることで威力を調整することが可能であろう。時間経過はA,B,C,Dの順である。

 

Bakushuku Keika
図4 慣性閉じ込め核融合の模式図

 

図4Aは水爆の本体(セカンダリー)の構成を示す。外周にウランあるいは鉛などの重元素で作られたプッシャーがあり、その内側に核融合燃料がある。核融合燃料がD6Liの場合、プライマリー原爆が発生する高速中性子が6Liと反応して(式(2)に従って)、トリチウムTが水爆の内部で生産される。

 

核燃料がDTポリスチレンの場合、爆縮を助けるために、ポリスチレンはスポンジ状であると推定される。発砲スチロールの内部の気泡を細かくしたものであろう。トリチウムTが半減期12年で壊変するので、水爆としての性能は経年とともに劣化する。

 

プッシャー材料が核分裂物質のウランであるとき、タンパーと呼ばれる。天然ウランの99.3%を占めるU-238はプライマリー原爆が発生する高速中性子を吸収して核分裂反応を起こす。これは連鎖反応ではないが、核分裂反応によってエネルギーを発生するので、水爆の威力が増す。その分、放射性物質による環境汚染も強くなる。

 

中心部は空洞になっている。ここに爆縮されたDTが集められ、高密度状態が形成された後、核融合反応が起動する。

 

図4Bはプライマリー原爆が爆発した後の段階を示す。慣性力が加えられる様子を示す。プライマリー原爆が発生したX線フラッシュが金属プッシャーを四方八方から照射する。プッシャーはX線のエネルギーを吸収し、爆発的に蒸発する。プッシャー粒子は四方八方に飛散する。中心方向に飛行する(D,Tよりも100倍近く重い)プッシャー粒子がD,T粒子と衝突すると、D,T粒子は慣性力を得て、中心部に向かって加速される。

 

X線フラッシュを発生するプライマリーはプルトニウム原爆である。原爆が爆発すると、爆弾を構成する物質が高温に加熱され、原子に束縛されていた電子が大量に解放される。解放された高エネルギーの自由に動き回る電子がX線の源になる。X線のエネルギーは核爆発の温度で決まる。

 

図4Cは、中心部の空洞にD,T核燃料が集められ、圧縮される様子を示す。プッシャー材料の爆発的な蒸発が核燃料を中心部に向けて圧縮する。これを爆縮(補足説明3)と呼ぶ。

 

図4Dの時刻になると、高温かつ高密度な状態が作られた後、核融合反応が進行する。この段階でも、核融合中性子が6Liと反応してトリチウムTが生産され、核融合反応に寄与する。爆縮状態が形成される時間はナノ秒程度、密度は固体(水素の氷)の1000倍程度と言われている。

 

水爆本体(セカンダリー)のすぐ近くで原爆が破裂したら、その威力で水爆本体が破壊されるのではないかと危惧する。しかし、現実はそうではない。爆発波は超音速で進むけれども、X線は光速で進む。超音速と光速の速度差によって、爆発波が水爆本体に到着する前に核融合反応が終わっている。

 

核弾頭

核弾頭とはミサイルの先端や砲弾に装填される小型核兵器である。核弾頭にまつわる情報を、限定的であるが、インターネットで閲覧することができる。

 

W80核弾頭

米国では開発番号を付けて識別しているようだ。W80とはWarhead(弾頭)の80番目を指す。年代は不明であるが、図5の写真から1960年前後の時代が想像される。

 

工作工場とも思える作業環境で、普通の作業服を着た人がデリケートな核弾頭を取り扱っていることに驚く。人物の身長を基準にして弾頭の寸法を推定してみると、全長60cm、根元の直径30cm、先端部の直径24cm。重量は100kg程度であろうか。

 

W80
図5 W80核弾頭
出典 https://en.wikipedia.org/wiki/Thermonuclear_weapon

 

W80の基底部が円筒形であることから、セカンダリー(水爆部)は円筒形と推定される。写真と共に掲載されている爆縮図を図6に示す。

 

Secondary Entou
図6 円筒形セカンダリーの爆縮
上部の円形はX線を発生する核爆弾である。円筒部に回り込んだX線が水爆部を爆縮する。
出典 https://en.wikipedia.org/wiki/Thermonuclear_weapon

 

核融合燃料の選択

前章で述べたように、核融合反応用の燃料にはD6LiとDTスポンジの2通りがある。どちらが選択されているのであろうか。両者の得失を考えてみる。

D6Liの場合
トリチウムTは爆発時に現場で生産される。そのため、放射性物質であるTを取り扱う必要がなく、組立現場の放射能汚染を避けることができる利点がある。

 

まず、プライマリー原爆が発生する中性子が6Liと反応してTが生産される。爆縮が進行し、中心部で核融合反応が起動すると、そこでも6LiからTが生産され、核融合反応がさらに進行すると考えられる。

 

核融合反応で消費されるDとTの個数比は理論上1対1である。しかし、6LiからTを生産する効率は100%より低く、Dよりも多く6Liを装填する。何倍多くすれば良いのか、筆者は知らない。

 

DとLiの化学結合は1対1であり、他の原子比の化合物は存在しないので、単にD6Liの装填量を多くするだけなのかもしれない。最適値は計算シミュレーションと実験から求めているであろう。

DTの場合
トリチウムTは原子炉で生産される。原料の6Liを原子炉内に装填し、中性子照射によりTを生産する。原子炉では、照射に使用される熱中性子のエネルギーが低く、原爆が発生する高速中性子よりも効率よくTを生産する。

 

しかし、トリチウムが12年の半減期で減少するため、水爆威力が時間と共に劣化する。数年ごとにDT燃料を更新するメインテナンスが必要である。


生産されたTの分離・回収、放射性物質の取扱、DTスポンジの製造などの化学プロセスが必要である。

 

まとめ

米国の水爆弾頭は威力が500キロトンもあるようだ。広島原爆の50倍である。これは威力が大きすぎて使えない兵器であると思う。大都市を消滅させることができる兵器に何の意味があるのか?

 

米国とロシアは、それぞれ9400個と13000個という膨大な数の核弾頭を保有している。厳重な安全管理がされているとは言え、誤動作の恐れは常にある。人はミスを犯す。機器は故障する。

(出典 https://ja.wikipedia.org/wiki/核保有国の一覧)

 

水爆を保有する国連安全保障理事会常任理事国の米露中英仏の5カ国は率先して核兵器を廃絶する国際政治を進めて欲しい。持続可能な人類世界のために。

 

しかし、現実の日本は核兵器廃絶に反対する。何と言うことか。

 

「原子力の平和利用」と言う甘い言葉で形容される原子力発電も核兵器技術の延長線上にあることを忘れてはいけない。科学技術のデュアルユースの典型例である。

(出典 https://ja.wikipedia.org/wiki/核保有国の一覧)

 

補足説明

(1) 臨界質量

ウランやプルトニウムなどの核分裂反応を起こしやすい核物質を通常の状態(常温・常圧)の下で、ある一定以上の質量を集めると核分裂連鎖反応が始まる。連鎖反応が始まる最小の質量を臨界質量と呼ぶ。最小質量の条件を作る形は球である。

 

臨界質量の値を表2に示す。臨界質量は核分裂反応断面積、核分裂に伴って発生する中性子数、密度、同位体純度、中性子反射体の有無などによって変化する。密度を高める爆縮を利用すると臨界質量は更に小さくなる。その場合、1〜2kgと言われている。

 

 

反射体なし

反射体付き

核物質

質量(kg)

半径(cm)

質量(kg)

半径(cm)

235U

52

8.7

13 – 25

約6

239Pu

10

5.0

5 – 10

約4

233U

16

5.9

5 – 10

約4

 

 

 

 

 

表2 水素の同位体およびリチウム-6

(出典 Nuclear Energy, David Bodansky, Springer 2003)

 

核物質を誤って臨界質量を超えて一ヶ所に集めてしまうと、あるいは意図せずに周囲に中性子反射体を置いても連鎖反応が起きる。臨界事故である。1999年に東海村のJCOで臨界事故が発生した。

 

(2) MeVという単位

MeVとは、原子核物理学の分野で取り扱うエネルギーの単位である。電荷を一つ持つ粒子、例えば電子が1V(ボルト)の電位差で加速されたときに得る運動エネルギーを1eV(電子ボルト)と言う。1eVの百万倍が1MeVである。

 

日常生活で使うエネルギー単位はJ(ジュール)やkWh(キロワット・時)である。これと比べると、原子1個の分野で扱うエネルギー単位eVは非常に小さい。電荷eは1.6x10-19C(クーロン)。

従って、
  1eV=1.6x10-19CV=1.6x10-19J
    1MeV=1.6x10-19Jx106=1.6x10-13J

他方、1kWhは3.6x106Jであるので、
  1MeV=0.44x10-19kWh これを逆にすると
    1kWh=2.25x1019MeV

 

非常に沢山の原子核が関与すれば、核融合反応で発生するエネルギー量は大きくなる。核融合燃料の量に比例して発生エネルギーは増加する。

 

(3) 爆縮とは

火薬を爆発させると火薬のあった場所(中心)から外向きに火薬の燃焼成分や高温に加熱された空気分子が四方八方に飛び散る。これが爆発である。このとき、運動量保存の法則に従って、外向きに飛散する成分と同時に中心に向かって飛ぶ成分があり、これが中心部に集まり、中心部の圧力を高くする。これを爆縮という。

 

Bakushuku
図7 爆縮の模式図

 

黄色の矢印は中心に向かう圧力波。多数の圧力波が均等かつ同時に中心に到達すると中心を高密度に圧縮することができる。

 

常温、常圧における球形プルトニウムの臨界質量は10kgであるが、爆縮により臨界質量を1kg〜2kgまで減少させることができると言われている。

 

爆縮の技術は、原爆の小型化および慣性閉じ込めを利用する水爆にとって最重要なものである。当然のことながら、その技術情報は最高の軍事機密である。

 

(4) 核弾頭 W87とW88

1990年ごろに開発されたと推定される核弾頭がW87とW88である。その模式図を図8に示す。大気圏再突入に耐えるコーン形の容器は共通であり、長さ175cm、底部の直径55cmである。

 

W87 W88
図8 核弾頭W87とW88の模式図
出典 https://en.wikipedia.org/wiki/Thermonuclear_weapon

 

W87では、プライマリーを小型にする目的で超高性能火薬を用いている。小型化の代償で火薬の取り扱いが難しい。W88では、プライマリーとセカンダリーの配置が上下逆転する。プライマリーの取り扱い安全性は増したが、核融合燃料にトリチウムを使うため作業環境の放射能汚染が問題であったらしい。表3ではW87とW88を対比する。

 

弾頭名

威力

(TNT換算 )

重量

 

プライマリー

セカンダリー

火薬の種類

取扱安全性

燃料

汚染の恐れ

W87

300kt

軽い

超高性能

低い

不明

なし

W88

500kt

重い

高性能

高い

D,T

あり

表3 W87とW88の条件比較
出典 https://en.wikipedia.org/wiki/Thermonuclear_weapon

 

(5) 史上最強の水爆

ロシア人は、我々日本人が考えもつかない、飛躍したものを作りあげる。その一例が威力100メガトンの水爆である。その名は皇帝爆弾(Tsar Bomba)。さすがのロシア人も100メガトンは大きすぎると考えて、核実験では仕様値を50メガトンに下げた。

 

この水爆は1961年に北極海の島の上空4kmで炸裂した。威力は57メガトンと言われる。皇帝爆弾は重さ27トン、長さ8m。狂気の水爆である。

 

水爆を投下した飛行機は、爆発に伴う強烈な衝撃波の影響を受けて、高度が1kmも落ちたとのこと。衝撃波が地球を3回も周回したと言われている。

(出典 https://en.wikipedia.org/wiki/Tsar_Bomba)

 

(6) 中性子爆弾

水爆本体部(セカンダリー)のプッシャーに核分裂反応を起こさない材料を用いると、環境を汚染する放射性物質の大部分がプライマリー原爆の核分裂反応から生成されたものに限定される。勿論、核融合反応が発生する高速中性子も種々の放射性物質を生み出すが、それらの多くは短寿命である。なぜならば、生活環境に存在する材料の大部分は軽い元素から成り、軽い元素から発生する放射性物質は一般に半減期が短い。

 

他方、核融合反応が生み出す大量の高速中性子は人間や動物にダメージを与え、殺戮する。人体の70%は水であり、水素Hを沢山含む。高速中性子が水素Hと衝突するとHが叩き出され、生体組織が破壊される。

 

爆発威力は大きいが、放射能汚染は原爆並である。そのため、爆弾投下後のゴーストタウンと化した地域に人が立ち入ることができる。放射能汚染に比べて、中性子量が多いことから、中性子爆弾と呼ばれる。

 

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