福島事故に関する提言
我々は直ぐに解決できない問題に出会うと、その問題をいつか将来に解決することとし、とりあえず問題は処理されたことにする。問題を先送りした当初は、問題が未解決であることを認識しているが、日が経つにつれて宿題があったことを忘れてしまう。そして、問題があたかも解決済みであると考えてしまう。
原子力に関係した問題として先送りされたものを以下に挙げてみる。
原子炉で使用された核燃料には沢山の放射性廃棄物が含まれている。使用済み核燃料を再処理するかしないかに関わらず、廃棄物の問題は残る。我が国は使用済み核燃料に含まれるプルトニウムを核燃料から抽出して再利用する政策を採用している。いわゆる核燃再処理政策である。再処理を行うということは、核燃料に閉じ込められていた放射性廃棄物を取り出すことである。放射性廃棄物は放射能濃度に応じて分離され、容器に密封し、とりあえずは再処理工場の近くに貯蔵される。
問題はこれらの放射性廃棄物を最終的に貯蔵する最終処分サイトが未定ということである。最終処分サイトの候補すらない。見切り発車のまま、原子力を推進している。
ゴミ処分場の建設計画がないまま、都市を造り、都市住民がゴミを排出している構図である。これはゴミを自宅脇あるいは街はずれに野積みしていることに相当する。いつの日かゴミ処分場ができることを期待しているだけである。
下水道が整備されていない場所に建設されたマンション、すなわちトイレのないマンションの状態である。
福島第1原発の4号機は定期点検の最中であり、原子炉内に核燃料がなかった。本来ならば、地震や津波による原子炉事故が起きなくてもよかったはず。しかし、4号機の建屋内に何と1500本を越える使用済み核燃料が「中間貯蔵」されていた。大量の使用済み核燃料の崩壊熱が大量であるために、冷却水が蒸発し、核燃料の上部が水から露出した。核燃料が高温になり、水素が発生し、水素爆発が起きてしまった。
「中間貯蔵」という美名に惑わされていた。六カ所の核燃料再処理工場の稼働が遅れていたため、原発で使用された核燃料を原発から搬出することができないために、「中間貯蔵」をせざるを得なかった。それにしても、使用済み核燃料を原子炉建屋の中で貯蔵しているとは想像できなかった。てっきり、原発敷地内のどこかにプールを造り、そこに核燃料を貯蔵しているものと考えていた。
つまり、使用済み核燃料を原発から搬出することができないまま、発電を続けていたことになる。
更に、六カ所に建設した再処理工場の処理能力は1年で800トンである。国内の原発から発生する使用済み核燃料の量は処理能力の2倍とのことである。しかも再処理工場は試運転の段階でトラブルが発生し、操業の見通しがない状態にある。
以下は私個人の想像です。福島第1原発を建設する際に、地震や津波に対する対策は色々と考慮されたであろう。地震動の加速度、津波の高さとしてどの程度までを想定するのかも検討されたことであろう。しかし、原発建設のサイトが先に決まっており、そのサイトが対応できる地震動や津波高さが想定されたのではないか?
もっと大きな地震動や津波高さを想定するべきであると指摘されたとき、そうした巨大地震の発生確率が非常に低いため、それが直ぐに起きることはないと考えて、対策を真面目に検討することが後回しにされた。
発生確率が低い巨大地震に対応する工事はコストが巨額になるから、そのような対策は想定しなくても良いことになった。ある委員は巨大地震への対策をとる必要がない言い訳として、「巨大隕石が衝突する事象まで想定することになり、それでは原発は建設できない」という意味の発言をしていた。