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原子力災害と呼ぼう

2017.04.29

 

巷では福島の「原子力事故」という言葉が多用されているが、事態を正しく表す言葉は「原子力災害」である。「事故」で済ますことは、事態を過小に評価する習慣につながる。

 

2011年3月11日、東北地方にM9.0の巨大地震が発生した。この地震が誘発した巨大な津波が福島第一原子力発電所を襲い、3基の原子炉で炉心がメルトダウンするINESレベル7の事故が引き起こされた。ここまでは、「事故」でよい。

しかし、その後、大量の放射性物質(放射能)が環境に放出され、広い地域が汚染された。その結果、20万人近い住民が突然に避難を余儀なくされ、彼らの日常生活に大きな障害が発生した。2016年11月の時点でさえ、8万4千人の人々が県内外に避難している。

 

福島で起きた事態は間違いなく「災害」である。「事故」は原因で、結果は「災害」である。

 

海外の報道では、当初からnuclear disaster(原子力災害)という言葉が使われた。福島県や復興庁は「原子力災害」を用いており、「原子力災害対策特別措置法」も制定されている。しかし、何故か、マスメディアは「災害」でなく「事故」を多用する。「事故」に慣れると起きた事の重大さを忘れやすくなる。

 

「災害」でなく「事故」という軽い言葉が日常に使用されることの結果と想像される例がある。安倍総理が東日本大震災追悼式(2014〜2017)において式辞を述べているが、福島災害あるいは福島事故への言及がない。

 

敗戦を終戦と言い換えることに一脈通じるものを感じる。

 

用語の定義

事象(event)

ある事情のもとで、表面に現れた事柄。
例えば、冷却水が漏れ、漏れ出た水あるいは痕跡が見つかる場合。

 

事故(accident)

思いがけず生じた悪い出来事。物事の正常な活動・進行を妨げる不慮の事態。
分かりやすい例は自動車事故。原子力の例ならば、冷却水を循環させるポンプが故障し、原子炉を正常に運転することに支障が生じた場合。

 

災害(disaster)

地震・台風などの自然現象や事故・火災・伝染病などによって受ける、思わぬ災い。
また、それによる被害。


福島原子力事故が引き金となって多くの人に被害が及んだ事態は災害である。

 

INES レベル

和訳は国際原子力事象評価尺度
(INES, International Nuclear Event Scale)


これは国際原子力機関(IAEA)と経済協力開発・原子力機関(OECD/NEA)が策定したもの。
レベルは0から7までの8段階ある。レベル0は一番軽く、レベル7は最も深刻である。

 

ちなみに、レベル7が適用されたのは2例だけである。チェルノブイリ事故(1986)と福島事故(2011)。チェルノブイリの放射能放出量は福島の3〜10倍である。

 

参考資料

デジタル辞泉

国際原子力事象評価尺度 - Wikipedia

 

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