社会や音楽etcについて
200715
緊急事態宣言が5月末に解除された。しかし、コロナウイルスのパンデミックが収束した訳ではない。高温、多湿の夏場を迎え感染が弱くなったとしても、涼しい秋になれば感染がぶり返す可能性が高い。秋から冬はウイルスが活発になる季節である。ワクチン接種が行き渡るまで感染予防は欠かせない。
日本では何故か死者数が欧米に比べて少ない。この不思議な事実に多くの人が気付いている。しかし、その謎を解いた人は出ていない。私の仮説は自然免疫に交差免疫を加えた免疫が働いて感染者数を抑え、更に死に至る重症化を抑えたとする。この不思議が今後も続くとすれば、日本は欧米の例のような悲惨な状態にはならない可能性が高い。
交差免疫とは、風邪の原因となる通常のコロナウイルスに感染した経験があると、免疫系が新型コロナウイルス(COVID-19)を認識できる場合を言う。(参照 付録:免疫の紹介)
コロナウイルスCOVID-19に感染すると重症化し死に至る危険性があることから、多くの人が恐れ、不安になっている。しかし、コロナ感染の被害を日本の2020.06.17時点で見ると、100万人あたりの死者数は7人である。この数をインフルエンザ25人、交通事故26人、肺炎(高齢者の典型的な死因)750人と比較すればコロナ感染症の怖さの相対位置を知ることができる。端的に言えば、インフルエンザや交通事故よりも死者数は少ない。交通事故で死ぬ確率よりもCOVID-19に感染して死ぬ確率は数倍低い。肺炎は高齢者の死因の典型であるが、これに比べるとコロナ死は桁違いに少ない。以上は日本で5月までに起きた感染死である。
表1 国別の死者数 |
目を欧米に移すと、事態は違った姿になる。コロナ感染死者数はドイツの100人から英国・イタリアの500人強まで拡大し、数値は日本における肺炎死に迫る。ドイツでは食肉工場で集団感染が起き、コロナ騒動が再燃している(2020.06.23)。もし欧米並のパンデミックが日本で発生すると社会は大変な事態となる。
日本を含むアジア諸国の人口100万人あたりの死者数を表2で比較する。日本の7.4人よりも中国、韓国、台湾の値はもっと小さく3.2、5.4、0.3である。欧米諸国の死者数値よりも100倍ほど少ない値である。
中国の場合、感染は武漢市や周辺の湖北省に集中し、武漢市・湖北省のロックアウトが効いた。その結果、湖北省外へのウイルス拡散が食い止められた。100万人あたりの死者数は中国全体の人口14億人を使って算出した。そのせいで数値は小さくなっている。
台湾は早期に国境を閉鎖したことが効いて、感染者数を445人、死者数を7人に抑えることに成功した。驚くべき成果である。その背景には迅速な政治判断や検査体制がある。
表2 アジア諸国の死者数 |
日本では、コロナ感染の対策が後手に回っていたにも関わらず、死者数がとても少ない。その理由はこれまでのところ明らかになっていない。思いつく理由は幾つかあるが、どれもうまく説明することができない。そこで、私が辿りついた仮説は自然免疫と交差免疫(参照 付録-免疫紹介)の両方が働いたとするものである。
PCR検査はウイルス感染初期に感染を特定するために有効な検査である。鼻の奥の粘膜や唾液からウイルス試料を採取する。ウイルスは遺伝情報をDNAでなくRNAの形で持っている。まずウイルスRNAを安定なDNAに変換する。DNAは温度を上げ下げするプロセスにより倍増でき、これを何度も繰り返して(Chain Reaction)、DNAの個数を膨大な個数まで増やすことができる。(例えば、1回で2倍、2回で4倍、10回で1000倍、100回で100万倍。)増殖したDNAを測定することによってウイルス感染の有無を判定する。数時間を要するPCR検査であるが、検査精度(陽性、陰性の判定)は60%〜70%と言われている。
他方、抗体検査は過去にウイルス感染したかどうかを調べる検査である。1滴の血液を検査キットに滴らせば20分ほどで結果が得られる。抗体はウイルスを免疫細胞が退治した時に生まれた物質である。体内に残された、過去に感染したことの証拠である。新型コロナウイルス(COVID-19)の抗体の有無(陽性、陰性)を検査キットによって100%の精度で判定することができるとのこと。
抗体検査はPCR検査よりも速くて安い。この検査を統計解析に十分な人数(100万人?)に対して行えば、コロナ感染の疫学調査をすることができる。国民の過半数が陽性となれば感染は収束するのだが。
(参考 新型コロナウイルス抗体検査キットは精度が悪い?)
(https://www.magojibi.jp/956/)
ソフトバンクグループ(SBG)および厚労省によって中規模な抗体検査がほぼ同じ時期に行われた。その結果を表3、表4に示す。
表3 ソフトバンクグループによる抗体検査 |
SBGの検査の対象は関連社員と医療従事者である。関連社員の陽性率は0.23%。この数値は500人規模で神戸市および東北6県で行われた抗体検査の陽性率0.6%(神戸市)、0.4%(東北)と大差なく、いずれも小さな値である。注目するのは医療従事者の陽性率1.8%であり、これは関連社員の陽性率よりも1桁大きい。院内感染の証拠が見えたと言える。
表4 厚労省による抗体検査 |
SBGとほぼ同じ時期に厚労省が抗体検査を行なった。SBG検査よりも陽性率が小さいが、関連社員の陽性率0.23%とほぼ同じと言える。表3と表4が示す様に、日本の2020年春における陽性率が1%弱である。日本でコロナウイルスCOVID-19に感染した人は極めて少ない。感染によって獲得免疫を得た人はほとんどいない。即ち、集団免疫の成立から遠い状態にあると結論できる。
コロナ感染の可能性を評価する小川案です。
感染可能性Pを次の(式1)で評価する。
α 感染する確率を規格化する係数 n 接触する機会の番号 N ある期間に接触した回数 D(n) 接触機会ごとの接触者との距離 k(n) 接触者が感染者である確率 T(n) n番目の接触機会で過ごす時間 M(n) マスクの効果(0~1) |
上の式(1)は飛沫から感染する場合を想定している。接触者との距離が長いほど飛沫量が減り感染する確率は下がる。飛沫量は距離Dの2乗D2に反比例する。この式は物理学ではよく見かける。例えば、LEDライトで物を照らす場合、物が遠くなるにつれて光の強度は弱くなり、暗くなる。
市中では感染しているかどうか不明の人々と出会う。感染者に出会う確率は感染者数を人口で割った値とする。感染者は1万人あたり1.6人である。接触者が感染者である確率は、k(n)=0.00016となる。コロナ感染患者であることが明らかな場合はk(n)=1。
マスクの効果は、布マスクでM(n)=0.1、サージカルマスクでM(n)=0.9を想定しよう。布マスクは目が荒いのでフィルター効果が低い。目の細かい不織布を用いたサージカルマスクはフィルター効果が高い。
現実に式1を使って計算することはないと思う。そこで式の意味を簡単に述べてみる。飛沫量が距離の2乗に反比例するので、1m以内の距離で会話することを避ける。接触時間を短くし、サージカルマスクを付ける。無感染が明らかな人との出会いは問題ないが、不特定の人に出会う際には1万人あたり2人が感染していることを覚悟する。東京のような大都会ならば10倍の1万人あたり20人。緊急事態宣言の有無に関わらず感染者が街中にいることを想像すること。
コロナ感染の確率を下げるためには、マスク着用、不特定多数が集まる場所を避ける、手洗いをする、などが有効である。それでも感染したら運が悪かったと諦める。
SBGおよび厚労省が行なった抗体検査に依れば日本のコロナウイルスCOVID-19の感染率は未だ1%未満である。この数値は集団免疫が達成されたと言える70%、80%よりもはるかに小さい。それにも関わらず、ウイルス感染率は低く、重症化して亡くなった人も少ない。
そこで私は、やや荒唐無稽な仮説を出してみた。自然免疫と交差免疫が協働してコロナウイルスCOVID-19の感染を防いだと言う仮説である。自然免疫、交差免疫が働いた証拠となる物質を検出する手段を知らない。残念であるが両免疫の証拠を示すことができない。だから仮説である。
大学の元同僚から1本のメールが届いた。自然科学の分野で世界トップの科学雑誌Natureに掲載されたコロナウイルス研究の最先端を紹介する記事である。その内容を読んで、強い衝撃を受けた。日本のゲノム科学の存在感の無さが明かされた。日本の科学者および研究設備の名前が一つも出ていない。
2020年1月に中国からコロナウイルスCOVID-19に関する資料が世界に送られた。日本にも送られたことは新聞記事から知っていた。私が受けた衝撃とは、欧米と中国の合同チームが待ち構えていたかの様に共同研究を急速に立ち上げたことと、その研究内容であった。
図1 COVID-19ウイルスの3D画像 大型電子加速器が発生する短波長放射光がウイルス解析に貢献する。 |
ウイルスに関する報道でコロナウイルスの電子顕微鏡で撮影した写真は毎日見ていた。しかし、基礎科学研究の最先端世界が手にしている画像はコロナウイルスの3次元立体画像である。ウイルスは遺伝を司るRNAを持ち、それのゲノム解析は当たり前。
米国のバイオベンチャーのモデルナ社はウイルス資料の到着から3日後にワクチン製造に着手。ゲノム情報を駆使してワクチン薬を設計し製造することが当たり前の時代である。モデルナ社は5月には最初の治験を済ませている。
日本でもゲノム解析が商業化されている。ヒトの全ゲノムシークエンスは14万円で納期2週間。ウイルスNRAならば4.5万円。人類がヒト・ゲノムの全部を最初に読み解くために1990年から2003年までの13年を要した。費用は如何程であったのか?過去20年間における解析装置の開発に日本はどこまで貢献できたのか?
ゲノム科学分野の立ち遅れが、生命科学分野における日本の地盤を招いている。基礎科学研究への投資を削減する政策が、兵庫県に建設された大型放射光施設SPRING8にも影響を及ぼしているであろう。日本はウイルスCOVID-19の研究開発レースに参加していないと思われる。
ウイルスが変異して弱毒性になれば収束は早くなる。そのような幸運が起きない場合、コロナ禍はしばらくの間続くであろう。1年か2年?
抗体検査の結果、2020年春の時点で、コロナウイルスCOVID-19に感染した人は日本国民の1%未満である。自然免疫+交差免疫の効果が抗体陽性率50%に相当すると仮定してみよう。それでも残りの50%の非陽性者はウイルスに感染する可能性が高い。非陽性者にはワクチン接種が期待される。
もちろん、ワクチンには副作用がある。それでも予防効果がうまく機能することに賭けるであろう。ワクチンはまだ試験段階にあり、開発が順調に進んだとしても日本がワクチンを購入できる時期はかなり先である。開発が完成し、製造が開始されても日本がワクチンを直ぐ買える訳ではない。希望者は世界中に沢山いることを忘れてはいけない。不足したマスクの生産増強のような簡単な話ではない。故に、日本でワクチンを接種できるのは1年か2年先であろう。
しからば、我々ができることは自然免疫の強化に役立つ生活をすることである。ジャンク食品を食べず、適度に体を動かし、精神的にゆとりをもち、豊かな生活を送ることであろう。
コロナ予防策のメリットは風邪をひきにくくなること。それでも風邪をひいたら予防が不備であったと思う。
ウイルス感染の証拠となる物質。抗原(antigen)は免疫細胞上の抗原レセプターに結合し、免疫反応を引き起こす物質の総称である。例えば、体の外部から侵入した細菌やウイルス。ウイルスを選別して検出できればコロナウイルス感染の有無を判定することができる。ただし、簡便な方法であるだけにPCR検査よりも精度は落ちる。
(出典 https://serenclinic.jp/cancerlecture/immunotherapy05/)
後天的な免疫。自然免疫の目を盗んで体内で増殖を始めたウイルスや細菌、がん細胞のような病原体が現れた時に活躍する免疫である。
敵(抗原)の目印を認識し、敵に合った闘い方ができる高度な免疫反応を指す。この免疫反応では、T細胞やB細胞といったリンパ球が活躍する。敵(抗原)に出会うと、これらのリンパ球が大量に増殖され、強い殺傷能力を示す。
このように獲得免疫は、生まれつき備わっているものではなく、敵(抗原)に出会うと、その敵に応じた闘い方を学んで記憶する。そのため、次に同じ敵に出会った時に、すぐに攻撃をしかけることが可能である。
この獲得免疫の仕組みを活用し、病気を予防する目的でワクチンが生まれた。 同じ種類の抗原(例えばコロナウイルス)が二度目に体内に侵入すると、既に記憶されている免疫が直ぐに反応する。自然免疫と獲得免疫の働きをするのが様々な免疫細胞であり、体内を移動し、抗原を処理しながら体を健康な状態に保つ。
私の感想。どうやら人体は外敵ウイルスが侵入したとき、ウイルスのRNAゲノムを解析し、それに見合った処理をしているのか?生命の神秘と思う。
(読売新聞オンライン 2020.05.19)
風邪の原因となる通常のコロナウイルスに感染した経験があると、免疫系が新型コロナウイルス(COVID-19)を認識できる場合、交差免疫が起きたと考える。例えば、通常のコロナウイルスに感染することが多い子供が、新型ウイルス(COVID-19)に対して重症化しにくいことも、交差免疫で説明できる。
(出典 Wikipedia)
ある感染症に対して集団の大部分が免疫を持っている際に生じる間接的な保護効果であり、免疫を持たない人を保護する手段である。
多数の人が免疫を持っている集団では感染の連鎖が断ち切られる可能性が高く、感染の拡大が収まるか緩やかなものとなる。あるコミュニティにおいて免疫を持っている割合が高ければ高いほど、免疫を持たない人が感染者と接触する可能性は低くなる。
スウェーデンはCOVID-19感染に対する処方として集団免疫を選び、高齢者に多くの死者が出ている。これは現在も進行中。英国は当初、集団免疫の道を選んだが、急激な感染者増加が起きた時点でロックダウンに舵を切った。