Ongaku

カルロス・クライバーの演奏

 

10年ほど前、オーストリア北部のヒルシェークで毎年2月に開催される重イオン慣性核融合ワークショップに参加した後、帰り道にミュンヘン郊外に住むシュテファンさんを訪ねた。シュテファン夫妻が私をミュンヘン・ゲルトナー国立劇場のオペラに招待してくれた。その夜の出し物はヨハン・シュトラウスの喜歌劇「こうもり」。出演者の名前は記憶していないが、実に楽しい公演であった。当然、オーケストラはバイエルン交響楽団。シュテファン夫人がオペラ劇場のローヤルボックス席に独り座っている人物を指して、彼がミュンヘン国立オペラの総監督であることを教えてくれた。彼は全ての公演を独りで聴いているとのこと。この緊張感がオペラ公演の水準を維持しているものと思われる。

 

帰国後、すぐに「こうもり」のCDを買った。それはカルロス・クライバーがバイエルン交響楽団を指揮したものであった。クライバー指揮のCDを選んだ訳ではなかったが、実に気持ちの良い演奏のCDである。  「こうもり」のCDよりも前に買ってあったクライバーのCDは彼が1989年に指揮をしたウイーン・ニューイヤーコンサートである。これをiPodに入れて聴いていたとき、最後から2番目の曲となる「美しき青きドナウ」の滑らかな柔らかい演奏に気づいた。そこで、他の演奏と聴き比べをした。カラヤン指揮のベルリンフィルとボスコフスキー指揮の演奏。その差は歴然と分かる。 クライバーが指揮するウイーンフィルの「美しき青きドナウ」は、まずオーケストラの音の厚みと柔らかさで他を圧倒している。メロディーには、朝顔のつるがクルクルと回るような感じが、細部にまでゆきわたっている。バロック建築にみる曲線、アールヌボーにみるカーブが音に現れている。これぞ音楽の神髄ではないかと思う。  カラヤンの「美しき青きドナウ」は一見美しい音を聴かせているようであるが、平板である。機械的に、職業としての演奏をこなしているという感じ。朝顔のクルクル感がない。本物の音楽とは言い難い。

 

この時点で、クライバーのCDをできるだけ沢山集めたいとの衝動が高まった。インターネットで調べた結果、入手できるCDが実に少ないことが判明。カルロス・クライバーは録音をしない指揮者だとは聞いていたが、これほどCDが少ないとは。彼はミスを指摘されることを嫌って、録音を避けたと言われている。彼のCDはウイーンフィルもしくはバイエルン交響楽団との演奏である。

 

新たに購入したCD
ベートーヴェン    交響曲4番(バイエルン)
ベートーヴェン    交響曲6番(バイエルン)
ベートーヴェン    交響曲5番、7番(ウイーン)
ブラームス      交響曲4番(ウイーン)
ヴェルディ      オペラ椿姫(バイエルン) 

 

既に持っていたCD
ベートーヴェン    交響曲5番(ウイーン)
シュトラウス     ウイーン・ニューイヤーコンサート(ウイーン)
シュトラウス     喜歌劇こうもり(バイエルン) 

 

ボスコフスキー指揮のシュトラウスは昔評判がよかった。しかし、今聴いてみるとクライバー指揮に比べて魅力がないと思う。ウイーンフィルの素晴らしいところが出ていない。 

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