例えば、電気出力100万kWの原子炉の場合、発電効率を1/3と仮定すれば、核分裂反応の反応熱と核分裂反応で生成された放射性原子核の崩壊熱の和が約300万kWである。制御棒の挿入が終わった時点で発生する熱は運転時の約7%(21万kW)に減少すると言われている。これは核分裂反応で生成された種々の放射性物質、すなわち核分裂生成物の崩壊に伴う崩壊熱である。
核分裂生成物の多くは半減期が1時間以下であり、停止直後は急速に崩壊熱が減少する。原子炉の停止直後は崩壊熱が急速に減少し、停止から数時間で崩壊熱は初期の1/10程度まで減少する。その後はゆっくりと減少する。このことは、原子炉停止後の数時間を正常に冷却することが非常に重要であることを意味する。
1、2,3号機は正常な停止をすることだきなかった。その原因は幾つかあるが、主な2つの原因は、(1)外部から発電所の電力を送電する6系統が全て遮断され停電となったこと、(2)津波によって海水が発電所の地下室に入り込み、電源盤や非常用発電機などが使用できなくなったことである。1号機では、停電後から津波襲来までの約1時間は何とか冷却することができたけれども、その後は冷却ができなかった。
2011年12月に東京電力は1,2,3号機の冷温停止が確認されたと発表したけれども、これは「冷温停止」という言葉を正しい意味で使用していない。京都大学の小出裕章氏がコメントされたとおり、正常な停止を行ったとき、圧力容器底部の温度が100℃を切った時点で「冷温停止」を宣言することは正しい。
しかし、核燃料がメルトダウンして、そのメルトした物体がどの様な状態にあるのか、それが何処に存在するのかが不明の状況で、圧力容器底部の温度計の指示値が100℃を下まわったから冷温停止とすることは言葉の使用法の間違いである。
自動車の停止に例える |
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運転していた原子炉を冷温停止までもってゆくことを自動車の停止に例えてみよう。制御棒が挿入された直後の原子炉は、急な下り坂をかなりのスピードを出して走行している自動車に相当する。自動車が正常であれば、フットブレーキを力強く踏み込んでもブレーキが加熱することもなく自動車を減速し、停止させることができる。その後、サイドブレーキを使って自動車を路上で停止状態に保つことができる。この状況が「冷温停止」に相当する。
他方、福島事故の場合、自動車のフットブレーキが故障した状態であり、ブレーキペダルをいくら踏んでもブレーキが効かず、自動車が坂道を猛スピードで暴走している状態に相当する。この状態では、自動車はカーブを曲がりきることができず、ガードレールを突き破って崖下に転落してしまう。たまたま、自動車が大きな木に引っかかり、かろうじて停止した。自動車は大破してボコボコ。停止したけれども、これは不安定な停止であり、僅かなきっかけで自動車は木からはずれ、崖をずり落ちるかもしれない。