|
放射線の人体への影響は広島原爆による調査から明らかにされました。その結果が大変分かりやすく、簡潔に説明されている資料が「放射線影響研究所のご案内」というパンフレットです。是非、この資料に目を通すことをお奨めします。
「放射線」とは、電磁波又は粒子線のうち、直接又は間接に空気を電離する能力をもつものである(原子力基本法)。
X線、ガンマ線、ベータ線、アルファ線、陽子線、重荷電粒子線、中性子線など。
放射線は高速で真っ直ぐに飛行する微粒子と考えてよく、飛び去った後、戻ってくることはない。発射された銃弾のように、放射線はその場所から消える。放射線は物質(人体組織、細胞、DNAなど)にエネルギーを与え、物理的・化学的な変化を起こす。
X線とガンマ線は光の粒子であり、光速(1秒間に地球を7周する)で飛行する。
ベータ線(原子核から飛び出る電子のこと)、アルファ線、陽子線などは重さのある粒子であり、飛び去る速さは音速の数倍〜光速まで様々である。
放射能(英語はRadioactivity)とは放射線を放出する能力を指す。放射能力あるいは放射活力と記せば理解しやすい。放射能力をもつ物質を放射性物質という。ヨウ素131、セシウム137などの放射性物質は地表、水中、大気中に留まる。
放射線を銃弾に例えるならば、放射性物質は種々の武器、放射能は武器の性能に相当する。
放射能の単位(ベクレル)
放射能の量を表す単位がベクレル(Bq)であり、1秒間に1個の崩壊を1ベクレルという。
1ベクレル=1崩壊/秒
放射能の量は放射性同位元素の数Nと半減期T1/2(秒)で決まる。
Bq=0.69×N/T1/2
放射能の量は濃度(密度)で考えなければ意味がない。
その理由は物質の量が多ければ、そこに含まれる放射能は多いから。
例えば、1kgの物質に含まれる放射能の濃度をBq/kgと表す。
1Bq/gは1Bq/kgの1000倍である。
水の場合、1Lの体積に含まれる放射能の濃度であるBq/Lが使われる。
単位質量の物質に放射線が照射されたときに物理的に吸収されるエネルギーを吸収線量と言う。吸収線量の単位はグレイ(Gy)である。
1Gyの線量は物質1kgあたりに1Jのエネルギーが吸収されるエネルギー密度である。
1Gy=1J/kg
ガンの放射線治療では、患部に照射する線量単位としてグレイを使用する。数10グレイの線量を10回くらいに分けて照射する。
放射線防護(健康管理)に使用されるものでり、外部から全身に被ばくした際の生物学的影響を考慮した線量が実効線量である。
放射線が人体に及ぼす影響は放射線の種類によって異なる。また放射線による影響は放射線を受けた組織や臓器の種類によっても異なる。組織や臓器ごとに、(吸収線量×放射線荷重係数×組織荷重係数)を計算し、全身について合計した線量が実効線量である。
その単位がシーベルト(Sv)である。国際単位系で表すと、シーベルトとグレイは同じである。 1Sv=1J/kg
1シーベルトという線量は非常に大きい(人の生死が問題となるレベル)。
通常は100万分の1のマイクロシーベルトという単位が使用される。
1マイクロシーベルトの1000倍が1ミリシーベルト。
線量を時間で除したものが線量率である。TV・新聞報道で登場する、1時間あたりの線量であり、◎◎マイクロシーベルト/時あるいは◎◎μSv/hと表す。線量率(マイクロシーベルト/時)に時間を乗じたものが積算線量(マイクロシーベルト)である。
例えば、1.2マイクロシーベルト/時の線量率の環境に3時間いると、積算線量は3.6マイクロシーベルトとなる。
低線量率の被ばくでは、影響が30日以内に現れることはない。「直ちに」とは30日程度を指すと考える。
数シーベルトの大線量を一時に全身に被ばくすると、影響は30日以内に現れる。この場合が「直ちに」に相当する。
低線量率の被ばくによるガンの発生は10〜40年後と考えられる。
これを晩発障害という。
低線量率で小線量を被ばくした場合、必ず放射線障害が発生するわけではない。ほとんどの場合、障害は発生しない。ただし、発生する確率はゼロに近いがゼロではない。この点が理解を難しくしている。
何年か後にガンが発症したとしても、その原因があの時の放射線被ばくであったと断定することは困難である。
放射線障害発生の確率は疫学調査から推定される。ある線量の放射線を被ばくした集団と被ばくがない集団のガン発生の状況を比較することにより障害発生の確率が求められる。
具体的には、広島と長崎の原爆被ばく、チェルノブイリ事故被ばくにおける調査である。
広島・長崎では100ミリシーベルト以下の一時被ばくに放射線影響が見られなかった。遺伝的影響は観察されていない。
なお、国際放射線防護委員会は影響が現れる最小の線量はないものとし、被ばく線量をできるだけ少なくすることを勧告している。必要のない被ばくは避けること。
人体への影響をミクロに見ると、それは放射線によるDNAの損傷とDNAの修復である。DNAは2重螺旋構造をしており、1本の螺旋ともう1本の螺旋には相補的に同じ情報が書かれている。何らかの原因で1方の記号情報が損傷されると、反対側に残っている相補的な記号を元にして損傷が修復される。しかし、短時間に大きな線量を受けると、損傷部分が修復される前に2本の螺旋の同じ場所が損傷を受けることが起きる。この2重損傷も修復される。修復に失敗したとき、放射線障害にいたる可能性がでる。
従って、同じ線量であっても、短時間で被ばくする場合と長期間かけて被ばくする場合では人体への影響は異なる。
0.5シーベルト以上の大線量を一時に全身被ばくする場合、被ばく線量に応じて人体にどのような影響が起きるかが分かっている。早い時期に、確実に障害が発生することから、急性影響あるいは確定的影響と言う。
例えば、4シーベルトの放射線を一時に全身被ばくすると、30日以内に死亡する確率が50%である。7シーベルトを越えると、助からない。
JCO臨界事故で亡くなった作業員の被ばく線量は18シーベルトであった。
被ばく線量 |
症 状 |
0.25以下 |
ほとんど臨床的症状なし |
0.5 |
白血球(リンパ球)一時減少 |
1 |
吐き気、おう吐、全身けん怠、リンパ球著しく減少 |
1.5 |
50%の人に放射線宿酔 |
2 |
5%の人が死亡 |
4 |
30日間に50%の人が死亡 |
6 |
14日間に90%の人が死亡 |
7 |
100%の人が死亡 |
人体に現れる影響は発ガンと遺伝的影響である。影響が現れる線量に最小値はないと考えられている。影響の発生は確率的であり、線量に比例して発生確率が増加する。これを確率的影響という。
小線量被ばくでは、障害が必ず発生するのではなく、発生の確率が増える。このため、リスクという言葉が使われる。発生確率が増えることは、リスクが増えることと同じ。
一般の人に許容される被ばく線量は5年平均で年間1ミリシーベルトである。
単独の1年であっても5ミリシーベルトを超えてはならない。
この数値に基づいて、食品や飲料水に含まれる放射能濃度の規制値が算出される。
自然放射線による1年間の被ばく線量は世界平均で2.4ミリシーベルトである。
許容線量と関係なく、影響発生をできるだけ少なくするために、被ばく線量をできる限り少なくしなければならない。
低線量率長期被ばくの場合に何が起きるかに関する定説はなく、現在も研究が大なわれている。
広島、長崎の原爆被ばく調査では、一時被ばく線量が100ミリシーベルト以下の場合、統計的に有意なガンの増加が認められなかった。
他方、低線量率での被ばくの場合は一時被ばくの場合よりも影響が小さいと考えられる。そこで、低線量率×長期被ばくによる積算線量が100ミリシーベルトになったとき、影響は一時被ばく100ミリシーベルトの場合の1/2と仮定する評価方法がある。
放射性医学総合研究所の研究者は積算線量が100ミリシーベルトになると、ガンの発生確率が0.5%増加するとして、放射能汚染によるガン発生確率を評価している。
DNAについての個人的な理解を、間違いを覚悟で説明したい。皆さんご承知のとおり、DNAは2重螺旋構造をしている。私のイメージでは、2重螺旋とは、長いハシゴ状のものをグルグルにねじったものである。1方の螺旋および反対側の螺旋には相補的に同じ情報(A/T、C/Gの塩基配列)が書かれている。DNA情報とは4個のアルファベットA, T, C, Gの組み合わせで書かれた文書である。相補的という意味は、記号A, T, C, Gの反対側には記号T, A, G. Cが配置されていることである。AとT、CとGはペアである。一方の螺旋に記述された文書が反対側の螺旋にバックアップされている。文字を彫刻した版木と紙に印刷したものに例えることもできる。その結果、版木もしくは印刷紙のどちらかに間違い(損傷)が見つかれば、間違いを訂正(修復)することができる。
DNAでは損傷部分を切り抜き、反対側螺旋の正常データから復元した補修パーツを切り抜いた場所に埋め戻す。これが修復のプロセスである。
なお、2重に損傷しても修復が可能とのこと。放射線に限らず体内に取り込んだ種々の化学物質(発ガン物質)がDNAを損傷する。DNAの損傷は日常的に沢山起きているにも関わらず、障害や病気にならない理由はDNAの修復機能にある。修復作業に失敗すると、何らかの障害が発生する。年齢とともに修復失敗の数が増え、癌の発症が増加する。
医療では広く放射線が利用されている。X線がX線写真撮影やX線CTとして診断に使われることは周知のとおり。PETでは短半減期の放射性物質が利用される。
近年はガン治療に放射線が利用される。X線、ガンマ線、電子線、陽子線、炭素線など。
中規模以上の病院は電子線加速器を備えている。電子線を直接に、あるいは電子線をX線に変換して患者に照射する。
ありません。
深い地下でも、宇宙でも放射線ゼロの場所はない。
放射線医学総合研究所が身の回りの放射線についての早見図を作成しています。
早見図のダウンロードはこちら
カリウム(K)という元素にはわずかで(0.01%)あるが放射性のカリウム40(K40)が含まれる。ただし、半減期が10億年と非常に長いため、放射されるガンマ線の毎秒あたりの個数は少ない。カリウムを多く含む食品は海草、切り干し大根、芋など。高血圧症の人が普通の塩NaClの代わりにカリ塩KClを使う場合、K40の摂取が多くなるが、健康が問題にされることはない。
20年、40年と生きている間にリスクは色々とある。
一番のリスクは貧困とのこと。職業としてリスクが高いのは鉱業、林業。不慮の事故や自動車事故もある。食品添加物によるリスクもある。これらのリスクに上乗せされるのが放射線影響のリスクである。
1 横浜市青葉区
横浜市青葉区の庭先で住宅内で4月20日から4月25日までの期間、高感度個人線量計(ALOKA製 MYDOSE mini PDM-111)を用いて線量を測定した。
測定結果は0.08マイクロシーベルト/時であった。
2 鴨川と成田
3月18日から6月17日までの期間、鴨川と成田で測定されたデータを比較している。鴨川の値は成田の値の半分である。
測定値のグラフを別ページに載せているのでご覧ください。
文科省 モニタリング www.mext.go.jp
放射線医学総合研究所 www.nirs.go.jp
放射線影響研究所 www.rerf.jp