福島事故に関する提言

 

縦割り社会

 

現在の社会は、関係する事項が多種多様であるため、分担する事項に応じて種々の組織が作られている。一つの組織は特定の目的のために作られ、そこに属する人々は目的意識を共有して仕事をすることが期待される。

組織はツリー構造をしている。例えば、官庁ならば、省、局、室、課などと縦割り構造をもつ。縦割り構造は、ある目的に特化した専門家集団によって構成された組織が目標とする仕事を能率よく進めるための知恵である。省、局、室、課などが横方向の連携をとりながら有機的に機能する状態が理想的である。組織が縦割り構造をもつこと自体は問題ではない。問題となるのは、縦割り組織Aと縦割り組織Bの間に横方向の連携が弱いか、連携がない場合である。そうした場合を、縦割り社会の弊害と言う。
今回の事故をきっかけに気づいた縦割り社会の弊害の例を2,3あげてみたい 。


(1)地震動予測

文科省に研究開発局がある。同局の「地震・防災研究課」が2007年に「全国を概観した地震動予測地図」ポスターおよび報告書を公表(下のURL参照)した。2007年に地震動予測地図を初めて見たときに衝撃を感じた。何と、中部電力の浜岡原発が建っている地域が赤く表示され、東南海地震発生(M8.1前後)の危険が警告されていた。それ以外にも、福島原発や女川原発に近い区域に対して、宮城県沖地震(M7.5前後)が30年以内の発生確率99%で警告されている。ちなみに、2011.3.11発生の東日本地震は予測されていなかった。

他方、研究開発局には原子力開発を推進する「原子力課」が同居している。私が疑問に思ったことは、地震動予測の成果が原子力課の人々にどの程度、共有されていたのだろうかという点である。「地震・防災研究課」と「原子力課」の間の横方向の連携に大きな?が付く。研究開発局に属する2つの課は一体何を目的として仕事をしていたのであろうか。
http://www.jishin.go.jp/main/chousa/07_yosokuchizu/index.htm

A4サイズのポスターのコピーを本Webサイト からダウンロードできる。

 

(2)放射線データ

原発事故による放射能汚染に関する測定データの公表は文科省が管轄している。日本各地に設置された放射線モニタリングポストにおいて測定されたデータが集約され、それが文科省ホームページに掲載されている。しかし、発表責任者名は「原子力災害対策支援本部」である。原子力安全・保安院が主体ではない。想像するに、データ公表に携わっている人は、文科省の原子力安全課から「原子力災害対策支援本部」に名目的に異動しただけであろう。

TVや新聞で報道されたとおり、福島県浪江町、飯ン村では線量率が高い数値を示している。ところが、線量率が高い区域ならば、さらに詳しく汚染状況のマップを作成するための測定がされてもよいにも関わらず、そうした汚染分布測定がされた様子がない。原子力災害対策支援本部は文科省や他の公的機関が測定したデータをただ事務的に集約し、公表するだけである。

データが日本語と英語の両方で公表されていることは良い。しかも、データ自身は毎日更新されている。残念ながら、汚染の実態を探る意志がみられない。汚染現場の住民に彼らが欲しがっているデータを提供しようという意志が見られない。線量率が高い場所ほど測定がやさしいのに。もしも、汚染分布の測定が実施されているならば、それを公表して欲しい。

他方、福島第1原発敷地内の放射線データは東電のホームページに掲載されている。4月下旬のTVで東電関係者と思われる人が住宅地域内で放射線測定する様子を見たが、汚染マップが公表されていない。測定者に向かって、住民の一人が数値はどうかと訊いたところ、測定者は答えられないとつれない返事。恐らく、測定者は上から質問されても答えるなと釘をさされていたのであろう。このような態度が住民に不信感を与える。

更に、驚くべきことが5月上旬に発覚した。原発から放射性物質が大気中に排出された直後から風向きなどの気象条件を考慮して汚染状況をシミュレーションすることが行われていた。ところが、原子力安全委員会はシミュレーション結果を公表しなかった。シミュレーションは単なるモデル計算によるものであり、必ずしも汚染実態を表していない可能性があり、シミュレーション結果が住民にパニックを与えるということが公表しない理由であった。

測定データの公表、汚染分布測定、汚染シミュレーションなど、福島原発事故に関わる放射線情報の管轄主体が不明である。

 

(3)石炭火力の是非

これは2009年ことである。東北電力が最新の石炭火力発電所を建設する計画を発表した。この計画を経産省は発電効率が高いことを理由に支持した。他方、環境省はCO2を多く排出する石炭火力は地球温暖化対策に反するから反対を表明。経産省と環境省が争うとは何事かと思った。東北電力が計画を出した段階で、経産省と環境省が連携をとり、国としてどうするのかを決めればよいのに。両省のけんかを外部に出すとは情けない。

 

(4)浜岡原発の廃止

5月6日、菅総理が浜岡原発の廃止を表明した。その理由は東南海地震の発生が予想されることであり、それは上記の2007年発表の「全国を概観した地震動予測地図」に基づいている。地震動予測の研究成果が効力を出した初めてのケースと言える。

 

福島事故に関する提言