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自民党憲法改正草案を考える

2016.04.10

 

はじめに

国の最高法規である憲法を誰が遵守するべきかは、現行憲法の第99条に以下のとおり規定されている。

天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。

自民党は2012年4月27日に憲法改正草案を決定した。改正草案の98条と99条に緊急事態条項が登場する。緊急事態条項と特定秘密保護法(2014年12月10日に施行)のセットがあれば、日本は戦争ができる国になる。

 

日本の平和を維持するためには、ただ単に「9条改正絶対反対」を叫ぶだけでなく、憲法改正草案の中身も吟味し、何が良くて、何が悪いのかを考えなければならない。理性的な議論が必要であると考える。
Kenpou

 

日本の平和を維持するためには、ただ単に「9条改正絶対反対」を叫ぶだけでなく、憲法改正草案の中身も吟味し、何が良くて、何が悪いのかを考えなければならない。理性的な議論が必要であると考える。

 

改正草案

改正草案はインターネット上に公開されており、pdf版をダウンロードすることができる(https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdf)。この資料は、改正草案と現行憲法を上下2段に示し、両者を照合することが容易である。是非、一度は目を通すことを勧める。

 

自民党は2年半の時間をかけて改正草案を作成した。内容の是非は別として、自民党が真面目に改正作業に取り組んでいたことが分かると思う。反対するには、自民党が改正草案を作成するために尽くした努力を凌駕する労力を惜しんではならない。労力を惜しむことは論戦での不戦敗みたいなものであろう。

 

改正案の何が、どのように悪いのかを論じ、現行憲法に対しても不完全な部分を見出したら、それを正すことをしても良いはずである。

 

重要な改正点

改正草案は、かな遣いの修正という軽い内容から非常に重要な事項まで幅広い内容を含んでいる。私が興味を持った項目を下の表1に示す。その中で、私が非常に重要な項目と考える3点を以下に挙げる。

 

@9条の二で新設された「国防軍」
現行憲法では「陸海空その他の戦力を保持しない」とあり、軍隊の保持を否定している。それに対して、改正草案では「国防軍を保持する」とし、軍隊保持を明言する。

 

A98、99条で新設された緊急事態
98条の「緊急事態の宣言」では、「、、、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。」と規定している。要するに、国会議決を経ることなく、内閣が閣議の場で緊急事態の宣言を決定する。

 

99条の「緊急事態の宣言の効果」では、「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、、、」と規定している。

 

すなわち、内閣が法律と同等のものを、国会議決を経ずに制定することが可能となる。

 

B100条で憲法改正のハードル下げ
改正案では、憲法改正に必要な国会議決のハードルが三分の二以上の賛成から過半数の賛成に下げられている。

 

現行憲法では、「各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、、、国民投票で過半数の賛成を必要とする。」とあるものが、改正草案では、「両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し、、、国民の投票において有効投票の過半数の賛成を必要とする。」に変更される。

 

表1 現行憲法と改正草案の簡易対照
筆者が選択した条項を対照する。
(https://www.jimin.jp/policy/policy_topics/pdf/seisaku-109.pdfから抜粋)

 

 
現行
改正草案
前文

日本国民は、正当に選挙された、、、

日本国は、長い歴史と、、、

  再び戦争の惨禍が起こることのないようにする、、、 国と郷土を気概を持って自ら守り、、、
1章 1条
 天皇
日本国の象徴であり日本国民統合の
象徴であって、、、
日本国の元首であり、日本国及び日本国民統合の象徴であって、、、
3条 天皇の国事、、、 国旗は日章旗とし国歌は君が代とする。
日本国民は国旗と国歌を尊重しなければならない。
2章 戦争の放棄 安全保障
9条 国権の発動たる戦争と、武力による
威嚇又は武力の行使は、国際紛争
を解決する手段としては、永久にこ
れを放棄する。
前項の目的を達するため、
陸海空その他の戦力は、これを保持
しない。国の交戦権は、これを認め
ない。
国権の発動としての戦争を放棄し、
武力による威嚇及び武力の行使は、
国際紛争を解決する手段としては
用いない。
前項の規定は、自衛権の発動を妨
げるものではない。

9条の二

 新設

  、、、国防軍を保持する。
    国防軍は、、、国会の承認その他の統制に服する。
    国防軍は、、、国際社会の平和と安全を確保するために、、、国民の生命もしくは自由を守るための活動を行う、、、
    、、、国防軍に裁判所を置く。

9条の三

 新設

  国は、、、領土、領海及び領空を保全し、その資源を確保しなければならない。
12条 、、、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。 、、、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。
13条 すべて国民は、個人として尊重される。 、、、 全て国民は、として尊重される。 、、、
  国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、 国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、
20条の3 国及びその機関は、宗教教育その他 いかなる宗教的活動もしてはならない。 国及び地方自治体は、特定の宗教 のための教育その他の宗教活動を してはならない。ただし、社会的儀礼 又は習俗的行為の範囲を超えない ものについては、この限りでない。
66条の2 、、、国務大臣は、文民でなければ
ならない。
、、、国務大臣は、現役の軍人で
あってはならない。

83条の2 

 新設

  財政の健全性は、法律の定めるとこ
ろにより、確保されなければならない。

現行92〜95条

改正92〜97条
地方自治

  大幅な変更があり、96、97条が追加される

現行96条

改正100条

各議院の総議員の三分の二以上の 賛成で、国会が、これを発議し、、、 国民投票で過半数の賛成を必要と する。 両議院のそれぞれの総議員の過半数の賛成で国会が議決し、、、 国民の投票において有効投票の過半数の賛成を必要とする。

現行99条

改正102条

 新設

  全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。
  天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。 国会議員、国務大臣、裁判官その他の公務員は、この憲法を擁護する義務を負う。

改正98条

 新設

緊急事態の宣言

  、、、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。

改正99条

 新設

緊急事態の宣言の効果

  緊急事態の宣言が発せられたときは、 法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、、、
    、、、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、、、

 

自民党改正案の注目点

前述の3つの重要な改正点合わせて考えると、改正案は非常に重要な問題点を内蔵していることが分かる。

 

もし、緊急事態条項だけでも改正が実現すると、特定機密保護法が施行されているので、内閣の判断によって何でもできる、オールマイティな政権が誕生する可能性が出てくる。9条を改正しなくても、9条改正と同等の条件が整い、日本は戦争することができる国に変身する。

 

これと似た構造を第一次世界大戦の後にドイツで制定されたワイマール憲法に見ることができる。参考資料にワイマール憲法の第48条を載せる。ヒットラーは、48条の大統領緊急命令を足がかりとして緊急事態法や権限移譲法を制定し、ナチスによる戦争を展開した。

 

現在の両議院における与党の議員数を見ると、2016年夏の参議院選挙の結果次第では、憲法のお試し改正あるいは改正草案の国民投票が実現する可能性が現実のものとなる。

 

もし、改正草案が国民投票で承認されたとき、その後の憲法改正に関わる国会議決が非常に易しくなる。そうなると、戦争をするために不都合な事項を随時、目的にかなった内容に改正することが容易になるであろう。

 

参考資料

ワイマール憲法第48条  大統領緊急命令

   (Notverordnung Wikipediaより抜粋)

Waimar

第1項
ドイツ国内において、ドイツ国憲法あるいはドイツ国法律に付随する諸義務が履行されない事態が発生した場合、ドイツ国大統領は武力を用いて事態に対処することができる。

 

第2項
ドイツ国内において公共の安全や秩序が著しく乱され、公共の安全や秩序を回復するための措置をとる場合、ドイツ国大統領は、必要ならば、武力を用いて介入することができる。

 

この目的のためにドイツ国大統領は一時的に、114、115、117、118、123、124および153条で規定された基本権利の全て、またはその一部を停止することができる。

 

第3項
48条の第1項あるいは第2項に該当する全ての措置について、ドイツ国大統領は遅滞なくドイツ国議会に報告しなければならない。

 

第4項
危険が差し迫った場合、地方行政府はその地域に対して、第2項に規定される措置を一時的にとることができる。この措置は、ドイツ国大統領あるいはドイツ国議会の要請により停止される。

 

第5項
詳細はドイツ国法律で規定される。

 

関連する法律  権限移譲法 (1933年制定)

 

Wortlaut des Artikels 48 der Weimarer Reichsverfassung

(Notverordnung Wikipediaより抜粋)

 

(1) Wenn ein Land die ihm nach der Reichsverfassung oder den Reichsgesetzen obliegenden Pflichten nicht erfüllt, kann der Reichspräsident es dazu mit Hilfe der bewaffneten Macht anhalten.

 

(2) Der Reichspräsident kann, wenn im Deutschen Reich die öffentliche Sicherheit und Ordnung erheblich gestört oder gefährdet wird, die zur Wiederherstellung der öffentlichen Sicherheit und Ordnung nötigen Maßnahmen treffen, erforderlichenfalls mit Hilfe der bewaffneten Macht einschreiten. Zu diesem Zwecke darf er vorübergehend die in den Artikeln 114, 115, 117, 118, 123, 124 und 153 festgesetzten Grundrechte ganz oder zum Teil außer Kraft setzen.

 

(3) Von allen gemäß Abs. 1 oder Abs. 2 dieses Artikels getroffenen Maßnahmen hat der Reichspräsident unverzüglich dem Reichstag Kenntnis zu geben. Die Maßnahmen sind auf Verlangen des Reichstages außer Kraft zu setzen.

 

(4) Bei Gefahr im Verzuge kann die Landesregierung für ihr Gebiet einstweilige Maßnahmen der in Abs. 2 bezeichneten Art treffen. Die Maßnahmen sind auf Verlangen des Reichspräsidenten oder des Reichstages außer Kraft zu setzen.

 

(5) Das Nähere bestimmt ein Reichsgesetz.

 

関連する法律 Ermächtigungsgesetz (1933)

 

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