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非エスタブリッシュメント政権の登場

2016.12.20

はじめに

トランプ政権の予測が幾つかメディアに紹介されているが、それらの多くがステレオタイプな見方になっている。ここでは、米国企業で仕事をした経験のある友人から聞いたことに、私の想像を加えたものを述べる。

 

大統領選挙は各種の業界が自分達に利益を誘導するためのプロセスであり、国民にとっては自分達の希望を託すお祭りでもある。大統領選挙を業界から見れば、一種の経済活動と言える。

 

2016年の大統領選挙ではエスタブリッシュメントのクリントン候補が非エスタブリッシュメントのトランプ候補に敗れた。

 

回転ドアー

過去数十年にわたり、米国では共和党と民主党の間で政権交代が行われてきた。大統領選挙を経て、政権交代が起きると国務長官などの要職だけでなく、大統領府及び連邦政府機関で働く5000人くらいのスタッフの新旧交代が行われる。

 

業界から送り込まれた人物は、4年間の在任中に、いかに業界に有利な法律や政策を立案し実現したかで評価される。優れた業績を挙げた者は、高給で迎えられ、出世する。政権発足時に回転ドアーを通って大統領府に入り、成功した者は4年後に回転ドアーを通って業界で重要ポストを得る。 Door

 

人材の選出

業界は選挙キャンペーンの途中で勝馬候補を見極め、勝馬候補に投資する。候補者の選挙資金に高額の献金をする。それと並行して、送り込み先ポストと送り込む人材のリスト作成に励む。業界の要望リストは選挙戦後に次期大統領に渡される。

 

当然のことながら、影響力の大きいポストを得るためには高額の献金がモノを言うであろう。ハイリターンを得るには多額の献金。献金イコール投資である。経済規模の大きい業界の献金額は100万ドル(億円)の単位であろう。

 

友人が在職したグローバル企業では、選挙キャンペーン中の役員会の主な仕事は人材リストの作成とのこと。役員は選挙に集中し、経営から離れる。経営は下位の者にまかせる。故に、この時期は物事の決断が速くなるそうだ。

 

なお、大口の献金(2000ドル以上)が献金総額に占める割合は思ったほど高くない。クリントン氏で32%、トランプ氏で16%。(参考 毎日新聞 2016.10.22)

 

エスタブリッシュメント型

私が知る米国は1960年以降である。1960年はケネディとニクソンが初めて生放送でTV討論を行った記念すべき年である。それ以降も、いずれの候補者も政治家としてのキャリアーを積みあげて選挙に臨んだ。大統領選挙はエスタブリッシュメント同志の戦いが続いた。

 

2016年のクリントン候補は東部エスタブリッシュメントの典型である。彼女はトランプ氏を凌ぐ5.9億ドル(約600億円)もの選挙資金を集めたにも関わらず、選挙に敗れた。選挙資金ではトランプ氏よりも多くを集金していたのに。クリントン氏の選挙活動は在来型であった。

 

非エスタブリッシュメント型

トランプ氏は一匹狼の個人型である。彼は選挙キャンペーンの当初、費用を自己資金で賄った。献金はキャンペーンが動き出してから後に集まったようだ。エスタブリッシュメントが牛耳る業界は当初から期待しておらず、献金も少なかったのではないか。

 

トランプ氏は米国東部の出身であるが、政治家になる修行をしていない。そうしたトランプ氏を業界はエスタブリッシュメント仲間とは考えないであろう。しかも、当選を希望していなかったせいで、人材リストの作成もしていなかったのではないか。

 

その結果、トランプ氏は推薦ポストのリストを受け取ることもなく、業界に借りを作らなかったと、私は想像する。トランプ氏は自分の判断で重要ポストを決めることができる。中級以下のスタッフには残留してもらうのではないだろうか。

 

そうであれば、重要度の低い政策は継続されるのではないか。

 

大統領専用機・エアフォースワンの後継機発注に関して、トランプ氏は、自分の飛行機を使えば良いので、後継機を注文しなくても良いと考える。このような思考を在来型のエスタブリッシュメント政治家はしないであろう。

 

シリコンバレーとの親和性

トランプ政権は非エスタブリッシュメントである。これは以下の関連からシリコンバレーに繋がる。

 

非エスタブリッシュメント → 非米国東部 → 米国西部 → シリコンバレー

 

共和党組織はトランプ氏に既に成長した大手企業(エスタブリッシュメント)を仲介しないと想像される。結果として、トランプ政権は新興のIoT業界と結びつく可能性が高い。

 

IT業界のエスタブリッシュメント企業といえば米国ではIBM、日本では富士通、NEC、日立であり1980年代後半まで業界をリードしていた。

 

1992年のインターネット技術の公開に端を発するネットワーク社会の到来、安価なネットワークの普及による誰でもが参加できるIT技術のオープン化の大きな流れがエスタブリッシュメント企業と対抗する勢力として台頭してきた。個人の資格で自分に特異な技術項目でネット上に存在するオープンな技術コミュニティに参加し、自分の意見を主張しネット上の総意でIT規格まで作りエスタブリッシュメント企業と対抗できる力をオープン・コミュニティが持つまでになってきている。

 

オープン・コミュニティに参加する個人たちはきっとトランプ氏の動きを歓迎するであろう。日本のIT技術者がオープン・コミュニティに積極的に参加し影響を与えられるほどに実力をつけていないのは寂しい気がする。

 

上の想像を延長すると、選挙キャンペーンで約束した雇用を増やすことを実現するために、トランプ政権が自動車ビッグスリーを本当に支援することは疑問である。今や、自動車生産の主役はロボットであり、ブルーカラー労働者ではない。IoTの普及が急速に進む産業に在来のブルーカラーが働く場はない。

エスタブリッシュメント系
  GE, MS、IBM, ボーイング、モンサント、コーニング, ビッグスリーなど

非エスタブリッシュメント系
  Google、アマゾン、テスラ、

世界を眺めると

エスタブリッシュメント系を在来型、非エスタブリッシュメント系を非在来型と置き換えてみる。そうすると、在来型と非在来型の争いが各地で起きている。

 

例えば、イラク、シリアにおける内戦はこのパターンである。国を支配する(支配していた)政権と政権に抵抗する勢力との戦闘である。後者の勢力は単独ではなく、複数が入り乱れている。

さらに、BREXITを決めた英国、イスラム教徒とユダヤ教徒の排斥が進むフランス、移民や難民の排斥で争うドイツなどでも在来思考と非在来思考がぶつかり合っている。

 

日本では

在来型の自民党政権はエスタブリッシュメント系に相当し、経団連企業が支持基盤である。現政権はそうした産業を支援する政策を進めている。

 

そこで、もし、野党陣営が政権を目指すならば、非エスタブリッシュメント系の産業を支援する政策を打ち出し、そうした企業から献金を自立的に得ることが大切であろう。政権交代を実現したいならば、在来型とは異なるビジネスビジョンが必要と思う。

 

  エスタブリッシュメント系
    旧財閥系企業、自動車産業、メガバンク、日立、東芝など
  
  非エスタブリッシュメント系
    ソフトバンク、リクルート、楽天、DeNAなど

 

エスタブリッシュメントとは

米国で、エスタブリッシュメントとは白人のアングロサクソン(WASP)でアイビー・リーグ(米国東部私立大学連合)の支配階級とのことである。アングロサクソンの本流は昔英国から移民した人々の末裔。易しく言えば、米国東部で生まれ育った高学歴で富裕な白人である。

(参考 エスタブリッシュメント Wikipedia)

 

最後に、有益な助言を頂いたNU氏に感謝する。

 

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