原子力、エネルギー、放射線についての解説

 

放射性物質の量をベクレルでなく質量kgで考える

 

政府および東電は、福島第1原子力発電所の事故に際して環境中に放出された放射性物質の量を放射能の単位ベクレルを使用して発表している。ベクレル単位で表すと数値が非常に大きくなり、日常生活で扱い数値を大きく超えてしまう。そうなると、もはや放射性物質の量がどれくらいのものなのか見当をつけることができない。ただ単に、「非常に大量」であるらしいとしか捉えることができない。

 

そこで、ここでは我々が日常に使用して理解の可能な単位、質量(kg)で放射性物質量を扱うことにする。この簡単な分かりやすい表現を何故人々が利用しないのか不思議であった。

 

検討対象は事故に巻き込まれた1号炉〜4号炉である。5号炉と6号炉では、1台の非常用ディーゼル発電機が幸運にも津波から生き残り、炉芯を冷却することができ深刻な事態に至ることはなかった。1号炉〜4号炉の建屋内にあった核燃料集合体に関する詳しいデータが不明であるため、新聞に報道されていた燃料集合体の情報を用いた。炉芯内に1496体が残されており、貯蔵プールに2724体が貯蔵されていた。合計で4220体の燃料集合体があり、この燃料について簡単な計算を行った。

 

電気出力100万キロワットの4号炉は764体の燃料集合体が装填されていた。この条件を4220体の燃料集合体にあてはめると、100万キロワット運転の5.5基分に相当する。

 

電気出力100万キロワットで原子炉を1年間運転すると、ウラン-235が1.2トン消費されたことに相当し、核分裂反応によって1.2トンの廃棄物が発生する。現実には、ウラン-235の0.2トン分はプルトニウムの燃焼が肩代わりするとのことであるが、廃棄物の発生量は1.2トンで同じである。

 

計算にあたり、以下の仮定をおき、表1の核分裂収率を使用する。
仮定1 
炉心に装填されていた核燃料および建屋内に中間貯蔵されていた核燃料は1〜4号炉において定格出力で1年間使用されていた。
仮定2
 半減期が短いヨウ素-131は運転最後の2週間で発生したものを評価に入れる。
仮定3
3号炉で使用されていたMOX燃料はウラン-235燃料と同じ核分裂生成物を発生していた。

 

1回の核分裂反応によって特定の原子核が生成される割合のことを核分裂収率と言う。以下の表1に計算対象とする放射性物質の核分裂収率を載せる。

 

             表1 核分裂収率

核分裂収率
半減期
ストロンチウム-90
5.75 %
29 年
ヨウ素-131
2.83 %
8 日
セシウム-134

6 % 相当

(観測値より)

2 年
セシウム-137
6.09 %
30 年

 

 

1号炉〜4号炉から大気に放出された放射性物質の量

 

炉芯あるいは貯蔵プールを問わず、1号炉〜4号炉の中に存在した放射性廃棄物の総量は6.6トンである。この数値を用いて主要な4種類の放射性物質量を表2にまとめる。放出量(ベクレル単位)は2011.3.15に保安院が発表した数値である

表2 大気へ放出された放射性物質量

  1〜4号炉内の
存在量
公表ベクレル値
推定値
放出質量 放出割合
ストロンチウム-90
注1の推定
注2の推定
注2 海へ放出
145 kg 数値なし
1.5x10^16
0.35x10^16
0.67x10^16
2.9 kg
0.71 kg [2]
1.3 kg [2]
2.0 % [1]
0.5 %
0.9 %
ヨウ素-131 1.4〜2.8 kg [3] 1.6x10^17 0.035 kg 1.3〜2.5 %
セシウム-134
測定値から推定
16 kg 数値なし
1.5x10^16 [4]
0.31 kg 1.9 %
セシウム-137
海へ放出
234 kg 1.5x10^16
2.7x10^16 [5]
4.7 kg
8.5 kg
2.0 %
3.6 %

 

注1 ストロンチウム-90の大気への放出割合がセシウム-137の大気への放出割合2.0%に 等しいと仮定した。
注2 チェルノブイリ事故でのストロンチウム/セシウム比0.15を適用する。
注3  ヨウ素-134の炉内存在量は最後の2〜4週間の運転で生成された量を仮定した。
注4  東京都産業技術センターのモニタリングポストが2011.3.15に測定したセシウム-134のベクレル数はセシウム-137のベクレル数と同じであったので、セシウム-134が大気へ放出された量(ベクレル)と、セシウム-137が大気へ放出された量が等しいと仮定した。
注5  フランスIRSN(放射線防護・原子力安全研究所)がセシウム-137の海への放出量として2.7x10^16ベクレルを発表した(2011.10.29)。

 

 

セシウム-137の場合、海への放出量が大気への放出量の2倍である。もし、これがストロンチウム-90にも適用されるならばストロンチウム-90も海へ2倍放出されたと考えるのが自然であろう。
この理由からストロンチウム-90の測定が待たれる。

 

チェルノブイリ事故の数値

参考としてチェルノブイリ事故において大気へ放出された放射性物質量を載せる。チェルノブイリ事故は4号炉(電気出力100万キロワット)1基が爆発した事故である。これに対して、福島第1原子力発電所の場合、4基の原子炉が事故に関与している。

 

表3 チェルノブイリ事故で放出された放射性物質

 
炉内の存在量
放出量
放出割合
ストロンチウム-90
43 kg
2 kg
5 %
ヨウ素-131
0.7 kg
0.4 kg
60 %
セシウム-137
81 kg
27 kg
33 %

 

 

附録

ベクレル数dN/dtと原子数Nの関係 dN/dt=0.693xN/T
Tは秒単位で表した半減期

 

グラム単位の質量M(g)と原子数Nの関係 M(g)=AxN/(6.02x10^23)
Aは放射性原子核の質量数

 

原子力、エネルギー、放射線