原子力、エネルギー、放射線についての解説

 

鴨川義塾講演のレジメ

講演日 2012.1.14

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(1)福島原発事故が起こした放射性物質による環境汚染

福島第1原子力発電所では、運転中の原子炉が地震のために緊急停止した後、核分裂生成物が発生する崩壊熱を除去することが必須であった。しかし、外部電源を喪失し、非常用電源も津波によって破壊された原子力発電所では崩壊熱を除去することができず、炉芯がメルトダウンする重大な事態に陥った。しかも、1〜4号機の4基の原子炉設備が同時進行で緊急事態に至った。


私が新聞に載っている情報を基にして推定したところ、1〜4号機に内蔵されていた核分裂生成物の総量は6.6トンである。セシウム137は約400kgであり、その1.2%にあたる4.7kgが環境中に放出された。政府発表ではベクレル単位で数値が示されたが、その数値が余りにも巨大であるため、日常生活の感覚で理解することができなかった。そのため、私はベクレルでなくkgで放出量を量ることにした。ちなみに、チェルノブイリ事故では炉芯に存在したセシウム137の33%が環境中に放出された。

 

福島第1原子力発電所から放出されたセシウム137は主に南西方向に拡散した。このとき、気象条件に加えて地形が影響していることが文科省から2011年11月に公表された資料から読み取ることができる。

 

(2)放射線の人体への影響

人体組織には細胞があり、細胞には人体の設計図であるDNAが含まれている。放射線が体内に侵入すると、放射線がDNAに衝突する確率があり、DNAの一部が損傷する場合がある。大部分の損傷はDNA自身で修復されるが、ごく希に修復が失敗する場合が起きる。そうすると細胞は正常な細胞分裂をせず、障害が発生することになる。こうした場合が放射線障害である。


ただし、放射線とは無関係に人体内部では毎日非常に沢山のDNA損傷が起きているとのことである。その結果、人間は高齢になると誰もがガンの素を持っているらしい。

内部被ばくと外部被ばくの人体への影響、健康への影響は同じである。

 

広島における疫学調査によれば、白血病の多くは放射線被ばくから10年以内に発症した。他方、その他のガンは年数の経過とともに50年後までゆっくりと増加した。白血病以外のガンは被ばく線量に比例して増加し、1.5シーベルトで相対リスクが2倍となった。なお、広島の場合、原爆による一時の被ばく線量であり、低線量を長時間かけて被ばくしたものではない。

 

放射線による人体への影響には2種類ある。確定的影響と確率的影響である。福島事故で問題となっているのは確率的影響であり、低線量を長年にわたって被ばくする場合の健康への影響が心配されている。しかし、現在までの科学研究では、明快な証拠は得られていない。

 

広島原爆の場合、100ミリシーベルト以下の被ばくでは障害の発生が確認されていない。DNAの損傷・修復を考える限り、急激な被ばくに比べてゆっくりとした被ばくは影響が小さい。科学的な証明がないため、長年かけて被ばくした線量の合計が100ミリシーベルトになったときの影響を推定するために、仮定あるいはモデルが登場する。

 

(3)内部被ばく

外部被ばくとは体外にある放射性物質から放射線を受ける場合であり、ガンマ線だけが関係する。他方、内部被ばくとは体内に取り込まれた放射性物質から放射線を受ける場合である。このとき、アルファ線、ベータ線、ガンマ線の全てが関係する。


放射線が影響する範囲は、アルファ線で0.04mm、ベータ線で数mm、ガンマ線で約10cmである。アルファ線の場合がエネルギー集中度が最も高い。

 

食品に含まれる放射性セシウムの検査にはガンマ線のエネルギーを詳しく測定することができるゲルマニウム半導体検出器が優れている。微量なガンマ線を測定するために、余計なバックグラウンド放射線を遮蔽する装置の中に検出器が置かれる。検出レベルを下げるほど、測定に要する時間は長くなる。


中型サイズ(相対効率15%)のゲルマニウム半導体検出器による検査では、セシウム137の定量可能レベルが80ベクレル/kgならば測定時間は10分間で済むが、32ベクレル/kgに下げると測定時間は1時間にもなる。

 

鴨川、南房総、勝浦で採取された農作物、鴨川漁港で水揚げされた魚の検査結果は千葉県から公表されており、鴨川市のホームページから参照することができる。


シイタケ、イノシシ肉、荒茶、ゴマサバ、アジ、ブリなどからセシウム137が検出されている。魚介類には食物連鎖があり、海水は流れていることから海産物には今後も注意が必要である。ストロンチウムが気になるところである。

 

プルトニウム汚染は福島第1原発周辺のみであり、その近くに立ち寄らない限り、プルトニウムを肺に吸引する心配はない。

 

ICRP(国際放射線防護委員会)が1996年に公表した「緊急時に考慮すべき放射性核種に対する実効線量係数」を用いてセシウム137を経口摂取した後、50年間に受ける線量を計算してみた。500ベクレルを1回摂取した場合、65マイクロシーベルト。500ベクレルを毎日、1年間摂取した場合、2.4ミリシーベルト。やや信じがたいほど被ばく線量が少ない結果である。

 

(4)結論

内部被ばくと外部被ばくの人体への影響は同じ
関東はセシウムに汚染されている(ホットスポット)
鴨川地区のセシウム汚染は非常に少ない
房総沖の海はセシウム、ストロンチウムに汚染されている
今後の追跡が必要
ストロンチウム測定の整備を期待する
内部被ばくから受ける線量は意外と少ない
プルトニウム(アルファ線)汚染は心配しなくてよい

原子力、エネルギー、放射線