原子力、エネルギー、放射線についての解説

 

高速増殖炉「もんじゅ」の光と陰

 

「もんじゅ」の概要

「もんじゅ」では核燃料の冷却に液体金属ナトリウムが用いられている。ナトリウムで冷却する理由は、核分裂連鎖反応で発生した高速中性子を減速することなく次の連鎖反応に利用するために水(水素、酸素)よりも重い元素であり、熱伝導率の高い液体金属であるナトリウムが適しているから。

原子炉の型式がループ型とあるが、これは1次ナトリウム熱交換器の入力ナトリウムループと出力ナトリウムループが格納容器の中に設置されている構造を指す。1次熱交換器を格納するために格納容器が非常に大きな鋼鉄製の構造物となっている。

 

表1 「もんじゅ」の主要な仕様

電気出力
24.6万kW
燃料
MOX燃料
型式 

ナトリウム冷却高速中性子型増殖炉

(ループ型)

プルトニウム装荷量
約1トン
増殖比
約1.2
ナトリウム装填量
1520トン
格納容器
直径49.5m 高さ79m
場所
敦賀半島の北西部

 

表2 年表

着工 1983年1月
完成 1991年5月
試験開始 1992年12月
臨界達成 1994年4月
ナトリウム漏れ事故 1995年12月
炉内中継装置落下

2010年8月

 

図1 もんじゅの概要図

Monju

 

光の部分

高速増殖炉とは高速中性子による核分裂連鎖反応を利用することにより、燃料として消費するプルトニウムよりも多くのプルトニウムを生産する原子炉である。生産されるプルトニウム量を消費されるプルトニウム量で除した数値を増殖比と言い、「もんじゅ」では増殖比が1.2とされている。


高速増殖炉はプルトニウムを短い運転時間で素早く増殖するという意味ではなく、核分裂反応から発生したばかりの減速されていないエネルギー高い、高速の中性子によって連鎖反応を維持する形式の原子炉である。その目的はウラン235の代用品となるプルトニウム239の生産である。


机上の理論では、ウラン235を燃料とする熱中性子炉(日本の原子力発電所で使用されている原子炉)に比べて高速増殖炉ではウラン資源を50倍ほど有効に利用することができるとされている。これはエネルギー資源に乏しい日本にとって非常に魅力的であると、原子力推進者は宣伝する。その目的のために、使用済核燃料を再処理する核燃料サイクルが行われている。


なお、再処理とは核燃料を何度も再利用するために行う化学処理を指す。一度加工処理が済んだ燃料を、加工精度を上げるために2回目の仕上げ加工処理をするという意味ではない。

 

陰の部分

高速増殖炉の研究開発は、米国、フランス、イギリス、ドイツでは中止され、現在も開発を行っているのはロシア、日本、中国、インドである。中止に追い込まれた表向きの理由はコストが高いことであった。

 

核燃料を目視できない
金属ナトリウムは光を通さないため、ナトリウムの中に浸かっている核燃料をビデオカメラで観察することができない。炉心で何かトラブルが発生したときに、それを目視することができない。X線画像あるいは超音波画像という手段が想定されるが、普通の光学的な観察のようには行かない。

 

反応度の異常

フランスのフェニックス炉(小型で1973年〜2009年に運転)では謎の出力低下を3回も発生した。この出力低下の原因が不明のままである。これは、核分裂連鎖反応における反応度が自然勝手に低下したことを指す。反応度の低下を自動車運転に例えると、一定の速度で運転をしている最中に突然エンジン出力が低下し、スピードが落ちることに相当する。

フェニックスの後継であるスーパーフェニックス炉でも運転中の原子炉が自動停止することが発生した。


高速中性子は連鎖反応で中性子が発生した場所から遠く離れたプルトニウムとも反応することが考えられ、そのために熱中性子炉の経験とは異なる挙動をするのではないか。反応度低下ならば一度、運転を停止し、再稼働すれば無事であろう。しかし、反応度上昇が起きれば、自動車の急発進にも相当する即発臨界となり、原子炉が暴走するかもしれない。

 

プルトニウム239の核特性

高速中性子によるプルトニウム239の核分裂反応では、ウラン235と熱中性子の組み合わせによる核分裂反応に比べて、中性子発生数が多く、遅発中性子の割合が小さい。この条件は高速増殖炉の運転特性が熱中性子炉よりも悪い可能性がある。

 

高純度なプルトニウム239の生成

通常の原子力発電用原子炉では熱中性子(低速中性子)を循環させて連鎖反応を維持している。そのため、炉内でプルトニウムが生成されるとしても、種々のプルトニウム同位体が混じったものとなる。すなわち、兵器に必要なプルトニウム239の純度が低いプルトニウムが生成されるため、核兵器への転用は難しい。

他方、高速増殖炉では炉心の外周に置いたウラン238と高速中性子が反応し、プルトニウム239が効率よく生成される。
その結果、「もんじゅ」では1年半の試運転中に純度96%以上のプルトニウム239が60kg程度生産されたと言われている。これは北朝鮮が生産するプルトニウム239よりも多分、高純度である。

 

開発者への提言

高速増殖炉開発を推進する人はフランスが経験した反応度異常の原因を解明し、その原因を理解した後に対策を講じるべきである。陰の部分、負の部分を隠して、良さそうな点だけに目がくらみ、「もんじゅ」開発を継続してはいけないと思う。

 

 

参考資料

 高速増殖炉研究開発センター http://www.jaea.go.jp/04/monju/index.html 
 もんじゅ Wikipedia

 高速増殖炉 Wikipedia

 

原子力、エネルギー、放射線