原子力、エネルギー、放射線についての解説

 

一から学ぶ放射能

 

NPO法人口腔健康推進協会サークルi 講演会

横浜市青葉区あざみ野 山内地区センター

2012.5.27

NPO Kouen2
 

はじめに

福島第1原子力発電所で事故が発生してから1年余りが経過した今、何故放射線や放射能のことを知る必要があるのでしょうか。その背景には、歯のX線撮影をすると歯の辺りに放射能が残っているのではないかと心配される人がいること、福島事故が引き起こした放射能汚染からの恐怖が私たちの生活を落ちつかないものにしていることなどです。

 

放射線や放射能とはどんなものでしょうか

放射線は光の速さ、あるいはそれに近い高速で飛ぶ、エネルギーを運ぶ粒子です。放射線は一直線に飛来し、飛び去ります。放射線には、X線、ガンマ線、ベータ線(高速の電子)、アルファ線(高速のヘリウム原子核)、中性子などがあります。 ガンマ線、ベータ線、アルファ線、中性子は放射性原子核が壊変するときに放射されます。ベータ線が放射されるとき、多くの場合、ガンマ線も放射されます。その例は、放射性のセシウムやヨウ素です。


他方、X線は高速に加速された電子を金属に衝突させたときに発生します。このX線が用いられている例が、胸部X線撮影やX線CTです。

放射線がもつエネルギーが体の中に入ったとき、様々な現象が発生します。その中の一つが、放射線が人の健康に及ぼす影響です。

 

放射能

放射能は物を指すのではなく、放射性原子核が放射線を放射する能力を指します。具体的には、放射性原子核の集団が1秒間に壊変する個数が放射能の強さを表し、その単位がベクレルです。放射能は放射性原子核が多くあればある程、強く、半減期が短いほど強くなります。

 

すなわち、食品や土壌などの物の量が多ければ、ベクレル値は大きくなります。そのため、放射能は濃度に意味があり、重さ1kgの食品や土壌に含まれるベクレル数が用いられます。例えば、バナナの放射能が35ベクレル/kgであったと言います。

 

半減期

放射性原子核が沢山あるとき、それが壊変して放射性原子核の数が1/2に減少する時間を半減期と言います。例えば、半減期が8日のヨウ素131の場合、ヨウ素131の放射能は24日後には(1/2)X(1/2)X(1/2)=1/8に減少し、80日後には1/1024まで減少します。

 

放射線と放射能の関係

放射線を弾丸に例えると、放射線の種類は弾丸の種類(弾丸、矢、大砲弾など)に相当し、放射能は1秒間に発射される弾丸の数に相当します。これはピストルが1秒間に発射する弾丸数にピストルの数をかけた数になります。放射能濃度は一定の範囲内に存在する沢山のピストルから1秒間に発射される弾丸の数に相当します。

 

放射線のエネルギーが及ぶ範囲は放射線の種類やエネルギーによって異なります。これは放射線の種類やエネルギーによって物質へのエネルギーの移動の在り方が異なるためです。内部被ばくを想定する場合、放射線が体の中を進入する距離は以下のとおりです。


アルファ線
0.04mm

ベータ線

(高速の電子)

数mm
ガンマ線

約10cm飛行後に、

電子が発生し、それが数mm

 

放射線

物(人間の体も含む)が放射線から吸収するエネルギーの密度が吸収線量であり、これを一般には放射線量あるいは線量と言います。線量の物理単位はJ/kgであり、これをグレイと言います。なお、Jはジュ−ルと言うエネルギーの単位です。同じJ/kgでも、体全体が放射線を被ばくし、健康管理が目的となるときの単位がシーベルトです。1シーベルトは大きなエネルギー密度であるため、日常では1000分の1のミリシーベルト、そのまた1000分の1のマイクロシーベルトが使用されます。


単位時間あたりの線量を線量率と言います。例えば、1時間あたりの線量としての1マイクロシーベルト/時です。この線量率で1時間被ばくすると蓄積される線量が1マイクロシーベルトとなります。

なお、新聞報道によれば、神奈川県の代表的な線量率は0.04マイクロシーベルト/時です。

 

線量率のマイクロシーベルト/時は放射性物質のベクレル値が大きくなるほど、大きくなります。しかし、シーベルト値は被ばくする放射線の種類やエネルギーによって変化するため、シーベルト値の計算は簡単ではありません。

 

一般の人々に許容される被ばく線量は5年平均で年間1ミリシーベルトとなっています。ただし、自然放射線による被ばくを除きます。

 

自然界に存在する放射線

自然放射線の源は2つあります。

@地殻に含まれる放射性物質

A宇宙や太陽

X線、ガンマ線、中間子、電子、陽子、中性子などがあります。国内でも自然放射線量は地域によって異なります。花崗岩が多い地域では線量が高くなります。日本では、年間の平均被ばく線量は1.5ミリシーベルトです。下の表に内訳を示します。

 

内訳

年間

ミリシーベルト

宇宙線
0.30
大地
0.40
ラドン
0.40
食物
0.40
合計(日本の平均)
1.5
世界の平均
2.4


人間が地球上で生活する限り、地域による差があるにしても、2ミリシーベルト前後の線量を受けます。線量がゼロとなる地域は、残念ながら、どこにもありません。

 

福島事故とは関係なく、普通に食物から受ける線量は1年間で0.40ミリシーベルトです。その理由は、食品に含まれるカリウムの0.01%が放射性のカリウム40であるためです。

食品に含まれる放射能濃度(ベクレル/kg)は、干しこんぶ(2000)、干ししいたけ(700)、ほうれん草(200)、じゃがいも(120)など。この結果、体重60kgの日本人の体内には放射性カリウムが4000ベクレルあると言われています。

 

NPO Kouen1

 

放射線の人体への影響

放射線が人体に入射すると、放射線エネルギーの一部が細胞内のDNAのどこかに吸収され、DNAが損傷される場合が起きます。DNAというものは細胞分裂を経て、新たに作られる細胞の設計情報を持っています。損傷された(間違った)情報で細胞が再生されることを防ぐために、DNAはほとんど修復されます。放射線以外にもDNAを損傷する因子は沢山ありますが、放射線量が高いと、損傷の頻度が高く、細胞分裂が速いと修復が間に合わず、障害の発生につながります。そのため、線量率が高いほど、蓄積線量が多いほど、細胞分裂が速いほど、障害発生の確率が高くなります。胎児、幼児、子どもは成長期にあり、細胞分裂が速いため、放射線に対する感受性が高いことが、胎児、幼児、子どもを放射線から守ることが大切であることの理由です。

確定的影響

瞬時に大量の放射線を被ばくしたときの影響は、広島、長崎の調査から、ある一定の被ばく線量ごとにどのような影響が発生するのかが分かっています。影響例には、白血球減少(500ミリシーベルト)、吐き気(1000)、30日間に50%の人が死亡(4000),などがありますが、そのような影響が必ず出る線量をしきい値と言います。すなわち、しきい値の線量ごとに現れる影響が確定しています。

確率的影響

確定的影響の場合ほど大量の被ばくでないとき、影響の現れる確率は線量に比例します。しかし、自然発生確率よりも小さい領域では、発生確率と線量の関係がどうなっているのかは分かっていません。分からなくなる境界の線量が100ミリシーベルトです。この場合の影響例は、ガン、白血病、遺伝などです。

 

他方、低線量率で10〜20年と長期間にわたる被ばくの影響は、放射線以外の因子による影響との区別が難しいため、科学的に実証されていません。とは言え、同じ線量を瞬時に被ばくした場合よりも健康への影響は小さいと考えられます。

 

福島第1原発のごく近くに住む場合と、原発から200km以上離れた場所では当然影響がかなり違うはずです。その福島ですら確定的影響が適用される被ばくはなかったようです。

 

健康へのリスクの考え方

放射線のリスクとは、その有害性が現れる可能性を表す尺度です。安全や危険を意味するものではありません。


しきい値がなく、直線的にリスクが増加する仮定(モデル)は科学的に実証された事実ではなく、公衆衛生上の安全サイドに立った判断です。あくまで、被ばくを低減するための手段として用いられるものです。

 

日本人の約30%がガンで死亡している現在、長期間にわたり低線量率で被ばくして累積線量が100ミリシーベルトになった場合、生涯のガン死亡リスクが約0.5%増加すると試算されています。他方、ガン死亡率は都道府県の間で10%以上の差異があるため、この差異の中に0.5%の増加は見えなくなってしまいます。

 

食品中の放射性物質

体内にある放射性物質から受ける被ばくが内部被ばくです。内部被ばくを監視するために、食品に含まれる放射能濃度(代表はセシウム137)の測定が各地で行われています。普通の野菜や海草に含まれるカリウム40と区別して、福島事故で発生したセシウム134,137を測定するためにゲルマニウム半導体検出器を用いて各々の放射性原子核に特有なガンマ線が分析されます。毎秒放出されるガンマ線の数が少ないため、測定には長い時間(10分〜1時間?)と大型の検出器(1000万円以上)が求められます。

 

2012年4月から食品中の放射性セシウムの基準値が以下のように下げられました。

 

ベクレル/kg
一般食品
100
乳幼児食品
50
牛乳
50
飲料水
10

 


なお、善意の自主規制ということで、もっと低い数値を目指すことは混乱を招くことになります。放射能ゼロを求めることは過剰です。私は、基準値を超えた食品を避ければ十分と考えます。

 

普通の食品に含まれるカリウム40のガンマ線エネルギーは、セシウム137のガンマ線の2倍です。だから、セシウム137に対して余りにも低い数値を求めると、普通の昆布やしいたけも食べられなくなります。

 

除染について

福島第1原発の近くは放射能濃度が高いため除染が必要です。汚染の程度が高い地域の除染が優先されます。しかしながら、除染に関する政策やシナリオが決まっていません。

 

除染はまだ試行錯誤の段階です。
セシウムは粘土(微粒子)に吸着され、7%しか水に溶け出さないようです。
汚染された表層土の体積は膨大です。例えば、面積が3kmX3km、深さが5cmの土壌は1億トンにもなります。

除染のステップ
汚染土を除去(現在はこの段階)
洗浄
分級(荒さ別に分ける)
セシウムの抽出
セシウムの濃縮
濃縮セシウムの貯蔵

 

結  論

 

講演に使用したスライド(pdf, 4.1MB)のダウンロード

参考資料

低線量被ばく検討WGの報告 2011.12.15

日本地質学会  http://www.geosociety.jp/hazard/content0058.html

環境放射線-Wikipedia

食品中の自然・誘導放射性物質-IAEA2002

Washington State Department of Health

原子力・エネルギー図面集2011電気事業連合

放射線影響研究所のご案内パンフレット

http://www.fpcr.or.jp/index.html がん研究振興財団

http://www.japc.co.jp/atom/atom_6-2.html 日本原子力発電

 

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