原子力、エネルギー、放射線についての解説

 

防災強化が間に合った東海第2

 

はじめに

東海第2原子力発電所は東海村の日本原子力研究開発機構(旧日本原子力研究所)に隣接するサイトにある。発電所の原子炉から直線距離で650m離れた場所に日本原子力研究開発機構のタンデム加速器があり、ここで原子核物理の共同研究実験に度々参加した。実験は数日間の終夜連続であり、お天気の良い日曜日の午後には研究所内を散歩した。発電所の入口まで来たら引き返した後、太平洋に面したビーチに向かい、海を眺めていたことが思いだされる。

 

TokaiTandem

東海第二発電所の原子炉から650m

離れたタンデム加速器


敷地境界のフェンスから何度も眺めたことがある東海第2原子力発電所が21011年3月11日に地震と津波の来襲を受けた。幸いなことに、震災前に施した防災強化が功を奏し、外部電源が喪失したにも関わらず、原子炉を無事に冷温停止することに成功した。

 

防災強化

2007年10月に茨城県が独自に「津波浸水想定」ハザードマップを公開した。これを受けて、東海第2原子力発電所では津波の想定高さを5.4mから5.7mに訂正した。具体的には、非常用ディーゼル発電機を冷却するための冷却用海水ポンプが設置されているエリアの防護を強化した。海水ポンプエリアの南側と北側に従来あった1.6mの防護壁の外側に2.8mの壁を追加した。これによって海水ポンプエリアは海面から高さ6.1mの防護壁で囲まれ、高さ6.1mの津波に備えた。

 

しかし、北側の防護壁の配管や配線のために空けられていた穴を塞ぐ工事が未完成であったため、この穴を通して海水が北側海水ポンプ室に侵入し、海水ポンプの1台が使用不能になった。その結果、非常用ディーゼル発電機3台のうちの1台が稼働することができなくなった。

 

更に、2010年夏には原子炉建屋の近くにある免震構造の緊急対策室建屋の屋上に空冷のガスタービン発電機が設置され、電気室電源盤までのケーブルも敷設された。

 

KkaisuiPumpArea
KaisuiPumpKitagawa
海岸に近い海水ポンプエリアの防護壁
海水に浸かった発電機用海水ポンプ

 

震災当日からの主な出来事

 

無事に冷温停止できた背景

2007年に茨城県が作成した「津波浸水想定」に対して、東海第2原子力発電所を操業する日本原子力発電が柔軟に対応したことが大きな要素である。海水ポンプエリアに増設された2.8mの防護壁(6.1mの津波に耐える)の穴を塞ぐ工事が北側では未完成であったけれども、南側では完成していた。この結果、南側に設置されていたディーゼル発電機冷却用の海水ポンプ2台が水没を免れ、ディーゼル発電機2台が稼働を続けることができた。
更に、ディーゼル発電機のバックアップとして空冷ガスタービン発電機が増設されていたが、これを使用しなくても対処することができた。


以上の地震・津波への対策が奏功し、原子炉が深刻な事故に至ることを防ぐことができた。

何故、そのような防災対策の強化が日本原子力発電で行うことができたのか?私は次のように考える。日本原子力発電は原子力発電所を東海と敦賀にしか持たず、東京電力よりも遙かに企業サイズが小さい。小さい分だけ、大企業病に犯されておらず、迅速かつ柔軟に防災対策や安全対策に取り組むことができた。そうした企業風土が東海第2を重大事故から救った。

 

防災教化に取り組んだ関係者の皆さんに感謝したい。

 

もしも巨大地震が1年以上前に起きていたら

とは言え、もしも巨大地震が1年前の2010年3月に起きていたとしたら、外部電源は喪失、ディーゼル発電機冷却用の海水ポンプは水没、非常用ディーゼル発電機は使用不能、バックアップのガスタービン発電機は未装備、電源車なし。その場合、発電所には電力がなく、福島第1原子力発電所と同じ事態に陥っていたと想像される。その結果、首都圏は大パニックに襲われていたであろう。東海第2原子力発電所は大変運がよかったと言うことができる。

 

表1 東海第2原子力発電所と福島第1原子力発電所の状況の比較

 

東海第2

福島第1

原子炉の基数

1

6

震源からの距離 (km)

約250

約170

襲来した津波の高さ(m)

5.4 (5.3, 2011/7/8の報告) 

14

津波の想定高さ(m)

4.8 (2002年)
5.7 (2009年)に変更

5.7

主要施設の標高 (m)

8

約10

地盤の変化量 (m)

東側に約1.2
下側に約0.2

 

津波に対する余裕高さ(m)

8-5.3=2.7

 

地震の最大加速度(ガル)

原子炉建屋基礎地盤上で観測された値

1号機 東西方向 225

1号機 南北方向 460
2号機 東西方向 550
3号機 東西方向 507
4号機 東西方向 319
5号機 東西方向 545
6号機 東西方向 444

外部電源

2系統の両方を喪失した

6系統を全て喪失した

原子炉制御室の状況

電力が供給されており、原子炉のデータ(温度、圧力など)を正常に読むことができたと想像される。

停電のため、原子炉の計測データを読むことが非常に困難であった

トラブル

非常用ディーゼル発電機を冷却するための海水を供給する海水ポンプ3台のうち北側の1台が海水に浸かり使用不能。しかし、南側の2台の海水ポンプは浸水せず、2台の非常用ディーゼル発電機を運転することができた。

 

電源車の到着

3月12日午前
最終的に3台が待機

 

外部電源復旧

3月13日19:37

 

冷温停止

3月15日 0:40

 

その他

2007年の茨城県津波ハザードマップを参考にして、海岸に隣接する海水ポンプエリアの北側および南側に標高6.1mの防護壁(高さ2.8m)を2010年に設置した。
しかし、3月11日の時点で北側の防水工事の一部が未完成であった。その結果、北側のエリアに海水が侵入し、海水ポンプ1台が使用不能となった。

 

その他

外部電源復旧後も余計なトラブルを避けるためにディーゼル発電機の電力により原子炉冷却を継続した。

 

その他

標高8mにある免震構造の緊急対策室建屋の屋上には空冷のガスタービン発電機が2010年に設置され、電気室電源盤までケーブルも敷設されていた。

 

その他

地震の揺れによって、蒸気タービン発電機のタービンブレードが破損した。

 

 

 

表2 東海第2原子力発電所の発電設備

 

1号機

2011.3.11の状態

稼働中

電気出力(万kW)

110

営業運転開始

1978/11

原子炉形式

BWR-5

格納容器形式

マークU

炉心燃料集合体数(本)

764

 

参考資料

1 「電源など多様化防護に挑む」
   日本原電・東海第二発電所レポート、成島忠昭氏
   エネルギーレビユー2012年2月号
2 「東海第二発電所」
   http://ja.wikipedia.org/wiki/東海第二発電所
3 「東海第二発電所の震災時の状況」
   日本原子力発電 
   http://www.japc.co.jp/tohoku/tokai/tsunami_to.html
4 「あわや全電源喪失…津波「想定」ぎりぎり 東海第二
   朝日新聞 2011年4月19日
   http://www.nowdo.com/_week_chat/asahi/asahi_news2011_0420.html
5 「東北地方太平洋沖地震における東海第二発電所の原子炉自動停止について」
   日本原子力発電 2011年3月15日
   http://www.japc.co.jp/news/press/2010/pdf/230315.pdf
6 「東北地方太平洋沖地震後の東海第二発電所の状況について」
   日本原子力発電 2011年3月28日
   http://www.japc.co.jp/news/press/2010/pdf/230328-2.pdf
7 「東海第二発電所における東北地方太平洋沖地震時に取得した地震観測記録の分析および津波の調査結果に係わる報告ならびに今後の対応について
   日本原子力発電 2011年4月7日
   http://www.japc.co.jp/news/press/2011/pdf/230407.pdf
8 「東海第二発電所における東北地方太平洋沖地震により発生した津波の調査結果に係わる報告書の提出について」
  日本原子力発電 2011年7月8日

 

 

 

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