原子炉内で作られる種々の放射性物質の中でアルファ線を放出するものは、燃料のウラン自身、プルトニウム、さらに重い超ウラン元素である。アルファ線が放射される個数は、放射性物質の量を半減期で除した値で決まる。そのため、量はウラン238よりも少ないが、半減期がウラン238よりも短かいプルトニウムがアルファ線を放射する物質として注目される。超ウラン元素はプルトニウムに比べて生成される量がずっとすくないため、需要度が低くなる。
プルトニウムはウラン燃料中のウラン238が中性子を吸収することにより生まれる。福島第1原子力発電所の3号機で使用されていたMOX(金属酸化物)燃料の場合、最初からプルトニウムがウラン235の代わりとして含まれている。原子炉に装荷された核燃料および建屋内に貯蔵されていた使用済み核燃料が事故によって損傷したため、福島第1原子力発電所からプルトニウムが他の多くの核分裂生成物と一緒に環境中に放出されました。
文科省が平成23年9月30日に公表した「プルトニウム、ストロンチウムの核種分析の結果について(参考1)」によれば福島第1発電所から約30kmの圏内で微量ながらプルトニウムが検出されている。30点ほどの測定点の中で最も放射能濃度が高いのは北西20kmにおける15ベクレル/m2である。それ以外の多くの地点での数値は0.5〜11ベクレル/m2である。
アルファ線の検出だけでも難しいが、プルトニウムとウランを識別するためにアルファ線のエネルギーを測定することはもっと難しい。そのため、福島第1原子力発電所から遠く離れた地点、あるいはホットスポットにおいて極微量なプルトニウムを検出することはできないかもしれない。
プルトニウムの場合、化学的毒性よりも放射線毒性の方がずっと強い。その理由はプルトニウムがアルファ線を放射するからである。
アルファ線が体内で放射される場合、アルファ線は0.04mmしか浸透せず、非常に狭い範囲の細胞や組織に放射線エネルギーを集中させる。その結果、DNAを損傷する確率がガンマ線やベータ線よりもずっと高い。
プルトニウムを含む食物を経口で摂取するよりも呼吸によってプルトニウムを肺へ吸入する方が500倍も危険度が高い。体内に取り込んだ放射性物質のベクレル数から線量シーベルトに換算する係数がある。プルトニウムを吸入する場合の係数は1.2X10-4である。この係数を用いると8ベクレルのプルトニウムを吸入することは1ミリシーベルトの被ばく線量に相当する。従って、プルトニウムを肺に吸入することがないように注意を払うことが重要である。
経口摂取では、放射線影響が少し弱く400ベクレルの摂取が1ミリシーベルトに相当する。
なお、福島第1原子力発電所の沖合の海底土に含まれるプルトニウムおよびウランが測定され、その結果が文科省から平成23年10月26日に公表(参考2)された。5箇所の測定試料採取点は3〜15kmの沖合である。半減期が88年と非常に短いプルトニウム-238は検出されていない。プルトニウム-239,240が微量検出されている。ただし、上記の参考1でのプルトニウム測定値は単位が面積1m2あたりのベクレルであるため、単純な比較はできない。
採取始点 |
Pu-238 Bq/kg |
Pu-239,240 Bq/kg |
江名沖合3km | 不検出 |
0.45±0.029 |
岩沢海岸沖合8km | 不検出 |
0.48±0.031 |
鹿島沖合5km | 不検出 |
0.40±0.027 |
原町区沖合3km | 不検出 |
0.39±0.026 |
福島第1敷地沖合15km | 不検出 |
0.60±0.035 |
ウランについては下表に示す数値が測定された。
採取始点 |
U-234 Bq/kg |
U-238 Bq/kg |
江名沖合3km | 5.5±0.40 |
6.4±0.44 |
岩沢海岸沖合8km | 6.4±0.36 |
6.1±0.35 |
鹿島沖合5km | 2.8±0.21 |
2.2±0.18 |
原町区沖合3km | 2.4±0.20 |
2.0±0.18 |
福島第1敷地沖合15km | 10±5.1 |
9.2±0.48 |
(参考1)
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/distribution_map_around_
FukushimaNPP/0002/5600_0930.pdf
(参考2)
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/1660/2011/10/1660_102614.pdf
http://radioactivity.mext.go.jp/ja/1660/2011/10/1660_102614u.pdf