原子力、エネルギー、放射線についての解説

 

外部被ばくと内部被ばく

 

外部被ばく

地表や大気中の放射性物質が放射するガンマ線やベータ線を体の外側から被ばくすることを外部被ばくと言う。アルファ線は空気中でも5cmほど離れていれば人体に届くことはないほど透過力が小さい。ガンマ線はベータ線よりも透過力が強いので、外部被ばくを起こす主な放射線はガンマ線である。例えば、セシウム137やヨウ素131はガンマ線を放射するため、これらの放射性物質が地表や大気中に沢山ある場合、大気中の放射線量が顕著に高くなる。

 

環境中に存在する放射性物質から受ける外部被ばくでは、体全体で放射線を受け止める。外部被ばくの主役であるガンマ線は透過力が強いので、ガンマ線は皮膚を透過して内部の組織まで浸透する。しかし、ガンマ線は透過力が強い分、そのエネルギーを体内のどこか特定の場所に集中して落とすことはない。放射線の影響は体内に広く、薄く分散する。

 

外部被ばくを少なくするためには、

@ 外部被ばくの原因である放射性物質を減らす
A 原因から遠く離れる
B 原因の近くにいる時間を短くする
C 遮蔽する

 

@の例:
校庭の線量率が高いとき、汚染された表面の土を削りとり、汚染されていない土と交換する。ただし、削り取った汚染土の処分をどうするかという課題が残る。

プールの水の放射能濃度が高いとき、水を入れ替える。

 

Aの例:
福島第1原子力発電所から遠くへ避難する。

線量率が高い場所に近づかない。

 

Bの例:
校庭の線量率が高いとき、校庭に出ている時間を短く制限する。

事故原発での作業では、被ばく線量の蓄積量を管理し、作業時間の上限を設定する。

 

Cの例:
事故原発では、どうしても作業しなければならない場所の線量率が高いとき、鉄板などを置いて放射線を遮蔽し、線量率を下げている。

 

 

内部被ばく

呼吸あるいは飲食をとおして放射性物質を体内に取り込むと、その放射性物質が放射する放射線に体内の組織(器官、細胞)が直にさらされる。放射線を遮るものが何もない状態である。これを体内被ばくと言う。

 

体内に取り込んだ放射性物質が、人体が必要としない元素であれば、人体から排出されて体内に留まらない。人体を構成する元素あるいはそれに近い化学的性質をもったものでも、新陳代謝に伴って、体内から排出される。多くの場合、体内から排出される速さ、すなわち体内半減期は1〜2週間と言われる。


ただし、全ての放射性の元素が排出される訳ではなく、体内に蓄積されるものもある。その代表例がストロンチウム90(半減期28年)である。ストロンチウムは骨に蓄積すると言われている。

 

外部被ばくのときとは逆に、人体に及ぼす影響はアルファ線が一番強く、ベータ線、ガンマ線の順に弱くなる。

 

アルファ線

外部被ばくでは問題とならなかったアルファ線が大きな影響を人体に及ぼす。その理由は、アルファ線が細胞やDNAに与えるエネルギー密度が非常に高いことにある。そのため、アルファ線は発生源から1mm以内のごく近くの細胞やDNAに影響を与える。アルファ線は透過力が小さいけれども。エネルギーを与える能力は大きい。


事故を起こした福島第1原子力発電所から放出される放射性物質の中で、アルファ線を放射する代表的な物質はウラン、プルトニウム、ラドンである。核分裂反応で生成される核分裂片にはアルファ線を放射するものはほとんどない。

 

ラドンは化学的な結合が弱い希ガスであり、ほとんど体内に留まることはない。ラジウム温泉ではラジウムの崩壊によって生まれるラドンが出ているはず。

 

原子炉の核燃料はほとんどウランで構成されているので、水素爆発によってウランがプルトニウムよりもずっと多く放出される。しかし、プルトニウムはウランよりも半減期が短いため、同じ数のウランあるいはプルトニウムを体内に取り込んだ場合、プルトニウムの方が人体の与える影響が大きい。

 

ベータ線

細胞やDNAに与えるエネルギー密度の点で、アルファ線とガンマ線の中間にあるのがベータ線である。ベータ線の中身は高速の電子である。ベータ線が人体組織を透過する距離はエネルギーによって変化するが、長くても1cmである。

 

ガンマ線

ガンマ線は透過力が強いので、内部から体全体を照射する。このため、外部被ばくの場合と似た影響があると考えられる。

 

内部被ばくを少なくするためにどうするか

放射線を放出する源が体内にあるため、源から離れたり、接する時間を短くしたり、遮蔽することができない。

 

@ 汚染が強い場所には出かけない、出かけても滞在時間を短くする

A 汚染が強い場所ではマスクをして呼吸による摂取を少なくする

B 放射性物質で汚染された物を食べない、飲まない

 

7月上旬の新聞で知ったこと。英国の放射能汚染に関する専門家の話しによれば、食物による内部被ばくは体内半減期のために、それ程重要ではない。問題なのは呼吸をとおして放射性物質を体内に取り込むこととのこと。のど、鼻、肺に蓄積した放射性物質が排出されにくい理由は説明されていなかった。

原子力、エネルギー、放射線