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福島第1原発には6基の原子炉がある。3月11日の時点で、1号機、2号機、3号機が運転中であり、4,5,6号機は定期点検のため停止していた。停止していた原子炉本体には核燃料はなかった。
以下は手元に届いた情報やTVや新聞の報道を元に作成した、4月上旬の時点における経緯と今後の見通しなどに関する私見である
14:46 M9.0地震発生
原子炉緊急停止(制御棒の自動挿入)
非常用炉心冷却装置が稼働
15:42 停電(外部からの交流電源喪失)
ディーゼルエンジン駆動の非常用電源による冷却
15:45 津波襲来、タンクなどが損傷
16:36 非常用炉心冷却装置による注水が不能(エンジン燃料切れ)
この後はバッテリーが電源
20:30 高圧継電器が水没、 2号炉に電源車接続
21:00 ポンプを起動し、炉圧が低下したら注入できる体制
23:00 1号炉タービン建物内で放射線量が上昇
31:51 1号炉海水ポンプ接続、冷水タンク注水
32:30 消火ポンプで注水実施
38:30 1号炉でベント開始
(2011.6.10追記)
39:36 1号炉で水素爆発
44:20 1号炉に消火系を使って海水にホウ酸を混ぜて原子炉注入
44:41 1号炉格納容器は破損していなかった
核分裂反応ごとに2個の放射性核分裂片(放射性原子核)が生成される。
原子炉停止後は放射性原子核のベータ崩壊が進行し、これにより崩壊熱が発生。
半減期の短いものが停止後の早い時期に沢山崩壊する。
半減期の長いものはゆっくりと長時間かけて崩壊する。
崩壊熱は初期の2〜3時間で急速に減少するが、以降の減少は小さい。
初期の2〜3時間で80%〜90%が減少する(高橋実氏の計算による)。
時系列記録から2時間弱は炉心冷却が機能していたと推定される。
非常用冷却装置が停止した時点で崩壊熱は初期レベルの40%〜50%であったと推定される。
16:36以降の約16時間、燃料棒は十分に冷却されなかった。
1日を経過した以降でも崩壊熱は約4,000 kW。
ラフな見積をすると、約4,000〜25,000 kWのヒーターで16時間、炉心を加熱したことに相当する。
燃料ペレット容器であるジルコニウム合金の被覆管の温度が1000℃以上(約1500℃?)になり、燃料棒が損傷した。
高温、高放射線の環境で水が分解され水素が発生し、水素爆発(これは水爆とは違う)に至った。
5月15日の東電発表:東電の解析では3月11日19:30以降、炉心温度が急上昇し、12日午前6時ごろ炉心が溶融した。
6月6日の保安院発表:保安院の解析では東電解析よりも10時間早い3月11日20時ごろ炉心が溶融した。
時速100km/hで下り坂道を走行していた自動車が停止するために、まずエンジンを切った。
次に、フットブレーキ(油圧ブレーキ)を踏んで速度を50 km/hまで減速したときブレーキが故障し効かなくなった。下り坂道をブレーキなしの状態で走行するうちに、自動車の速度が80km/hになった。その間に、自動車は制御を失い、あちらこちらに衝突し、損傷する。その後、ハンドブレーキで制動をかけるが、フットブレーキのようには効かない。ブレーキが過熱すると、しばらくブレーキを止め、ブレーキを冷やす。これを繰り返しながら、5km/h程度の速度まで減速できれば、動いている自動車から飛び降りることが可能となる。最後に、ハンドブレーキで坂道に自動車を停止したままにすることができれば成功。
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プール (m3) |
燃料数(本) |
発熱量 (kW) |
貯蔵燃料状態 |
炉内燃料状態 |
1号機 |
1020 |
292 |
70 |
不明 |
損傷の疑い |
2号機 |
1425 |
587 |
460 |
不明 |
損傷の疑い |
3号機 |
1425 |
514 |
230 |
損傷の疑い |
損傷の疑い |
4号機 |
1425 |
1331 |
2300 |
損傷の疑い |
炉内になし |
単位の変換(キロカロリー/時を1.16倍するとワット(W))
4号機の場合、20℃の水が55時間後に沸騰する!
稼働している原子炉の運転制御室と同じ制御系をもつ原子炉シミュレータが設置された運転訓練センターが複数の電力会社により運営されている。これは飛行機の操縦シミュレータと同じである。原子炉を運転するオペレーターは原子炉シミュレ−タで種々の状況に対応するための訓練を受けている。非常時の対応も訓練されているはず。オペレーターは定期的に再訓練を受ける。
3号機にはMOX燃料が入っている。MOX (Mixed OXide) 燃料は酸化ウランに酸化プルトニウムを混ぜたもので、燃料ペレットは焼結体である。プルトニウムの割合は3〜4%と言われている。プルトニムは核分裂反応の点でウラン235と似ているが、化学的毒性が非常に強いと言われている。
MOX燃料が損傷すると、有毒なプルトニウムが環境に放出されることが懸念されている。他方、焼結体は瀬戸物のような性質があり、その成分が気体となって飛散する可能性は低いとの見方もある。
現在の福島県および関東圏におけるヨウ素131やセシウム137の汚染(現在の量ならば健康への被害はない)は、主としてプールに中間貯蔵されていた燃料から漏れ出たものが水素爆発によって大気中に放出され、風に乗って各地に拡散したものによると考えられる。
中間貯蔵燃料の冷却は曲がりなりにも淡水による冷却がされるようになっており、水素爆発の可能性も低い。その結果、放射能が大気中へ飛散する心配はほぼなくなったと考える。
敷地内のがれきから放射能が飛散することを防ぐために、樹脂で固める作業が準備された。
樹脂固定の後に、がれきが回収されるものと考える。
中間貯蔵燃料および炉心燃料には大量の海水が注入されたので、損傷した燃料から漏れ出た放射能が水に溶け、その水が建物の中に大量に溜まっているのが3月31日時点の現状である。タービン建屋からトレンチに漏れ出た汚染水が問題となっている。3月30日のNHK-TVの報道では、タービン建屋の床面積が大きいので、トレンチから汚染水が溢れるまでには未だ余裕があるとの解説が大阪大学・山口教授からあった。現時点の最重要項目は炉心冷却である。時間の余裕がある間に汚染水を他に移す作業を行い、汚染水から汚染物を除去する作業はその後で可能との説明であった。
なお、TV・新聞の報道によれば、原発近くの海水から高濃度の放射能が測定された。海に放射能が漏れ出た経路は3月末の時点で不明であった。
4月2日
トレンチと繋がるピットが破損しており、そこから汚染水が海に流出していたことが判明した。これと同様な汚染水流出経路があるかもしれない。
この放射能が太平洋という外海まで拡散・移動するならば濃度は非常に薄くなり、海水の害は小さくなると考えたが、原発から40km離れた地点の海水でも汚染が強い。
4月4日に原発から70km南の茨城でコウナゴにヨウ素131の汚染(4080ベクレル/kg)が見つかった。
4月6日に大量に漏れ出ていた高濃度汚染水の漏れが止まった。
それ以外にも漏れがあるか?
炉心にある核燃料を淡水で冷却し、その1次冷却水を別の2次冷却水で熱交換により定常的に冷却できる段階が緊急事態の峠である。
高温かつ海水の環境では燃料被覆管の腐食や圧力容器なの腐食が進行するので、この状態からできるだけ早く脱出しなければならない。
遅れるほど、2次的な障害が発生する可能性が大きくなる。
崩壊熱の除去はまさに時間との戦いである。
4月7日に1号機の格納容器へ窒素ガスを注入する作業が始まった。これは、圧力容器内で発生した水素が格納容器に漏れ出て、それが水素爆発を起こす危険を封じるためである。
1号機の後、順次2,3,4号機に同様の処置を施す計画とのこと。
使用済み燃料の中間貯蔵に問題であることは以前、同僚から聞いていた。そのときは、中間貯蔵とは、発電所敷地内のどこかにプールを設け、そこに使用済み核燃料を六カ所に搬出するまでの期間、貯蔵するものだと想像していた。原子炉建屋の中のプールに貯蔵するとは考えなかった。
4号機では1331本が貯蔵されており、その発熱量が2300kWにもなるとは! 運転停止している原子炉建屋でも問題が発生する事態になっている。1〜3号機建屋に貯蔵されている燃料よりも1桁多い発熱量。
これは原子力行政が問題を先送りしてきたことのツケである。
事故処理は年単位の長期的なものである。今からでも遅くないので、情報発表の一元化と海外対応が望まれる。
これまでのところ、事故情報は種々の系統から出されている。公式だけでも、官房長官、保安院、安全委員会、東電、文科省。準公式がNHK。これに民放TV,新聞、など。
それぞれが、少しずつ異なる見解・表現を出すので、人々が混乱する。その果てに、人々は、政府や東電が何かを隠していると疑う。
こうした混乱の背景は日本の社会体制(縦割り制度)と社会習慣にある。
社会の混乱を避けるために、事故内容、放射線データ、対処策、計画、今後の見通しなどを誰かが一元的に発表することが望まれる。
外国が情報不足をクレームするが、その原因は英文での発信が少ないせいか?
実際に首相官邸と保安院のHPを見ると、どちらにも英文のページがある。
首相官邸は対応分野が広いため、事故については官房長官の発表が主体で、細かいデータや対処情報へのリンクがない。
保安院は和文と英文で事故対策と放射線測定データを掲載している。放射線データはかなり詳細である。勿論、大きな測定値が出ている区域周辺には、もっと多くの測定点が望まれる。
事故現場の現状に関する資料は東電が作成したものをそのまま事務的に掲載している。
事故対策に関する情報は乏しい。何を目的として○○の処置を行うという説明が乏しい。意見とか考えというものが出ていないし、大衆を安心させるために情報発信を工夫する、中身を充実させるという熱意が残念ながら感じられない。
誰が考え、誰が何をしようとしているのか、という主体(主語)が見えないことが、情報が少ないというクレームの原因と思われる。
英文でのWEB発信内容の検討および英語による定期的な報道発表を行えば、クレームが減るのではないか。
海外向けの情報発信が不十分であるため、海外の人々が過激な反応をし、海外の友人から情報を得る人は国内情報がウソで、海外情報が正しいと考えてしまう。
多くの人は、すぐに「情報が足りない」と不満をもらす。多くの情報がTVや新聞で発信されているにも関わらず、人々はTVや新聞を見ていない。出ている情報から意味することを考えない。
自分が関係する身近な領分だけについて、安全か危険かの2者択一を要求する。ゼロか100のどちらであるか、○×のどちらなのかを教えろと要求する。しかし、低レベル放射線の影響はゼロか100かの世界ではなく、確率の世界である。このことが、理解を難しくしているのだが。
この点、放射線医学総合研究所は事故に関係する放射線情報を和文と英文でWEB発表を続けている(http://www.nirs.go.jp/index.shtml)。